>世界の現実


■ みんなで考えよう!世界を見る目が変わる12の真実』

1.日本女性の平均寿命は85歳、ボツワナ人の平均寿命は34歳

● ローマ人は20歳過ぎたら老人?
2000年前のローマ時代の人たちは、どれくらいの寿命だったと思う?たった22歳だった。それから1500年後の中世のイギリスでも33歳。その時代に生まれていたら、君たちはあと10年か20年しか生きていられなかった。短すぎるよね。昔は飢饉や伝染病が人々の命を奪った。ペストという伝染病でヨーロッパの人口の4分の1が死んでしまったこともある。でも上下水道が整備され、衛生状態がよくなると、病気で死ぬ人も少なくなった。18世紀の産業革命で人びとが豊かになると飢える人も減った。その結果、この200年間で人類の寿命はなんと2倍にのびたんだ。

●世界でいちばん寿命が長いのは日本人女性
日本人平均寿命は85.5歳だ。毎年3カ月寿命がのびているというから、60年後には平均寿命が100歳になるかもしれない。一方でアフリカでは寿命がどんどん短くなっている。たとえばボツワナとういう国の赤ちゃんは34歳までしか生きられない。日本人の寿命のなんと半分以下だ。2010年には27歳になると予測されている。どうしてこんなにちがうのだろう。

●エイズと貧困が寿命を縮める
かれらの寿命が短い理由は、エイズと貧困、不衛生な環境にある。アフリカではエイズにかかる人が増えつづけ、今後死者は数百万人になるといわれている。エイズの治療をするにはとてもお金がかかる。1人あたりの治療費は1年間に300万円。だからそのお金を教育や病気の予防に回そうという人たちもいる。要するにもう死んでしまう人たちにではなく、まだ健康な人たちにお金を使おうという意見だ。現実には病院にエイズの人たちがあふれている。君ならどちらにお金を回す?


2.中国では4400万人の女の子が生まれてこなかった

●毎日16人の女性が持参金不足で殺される
中国では将来5000万人もの男性が、結婚相手を見つけられなくなるといわれている。5000万人も男性のほうが多くなってしまうんだ。なぜだろう?それは人びとが女の子より男の子をほしがったから。中国では2000年に女の子100人に対して、男の子は118.5人も生まれている。この男女比はますます拡大している。インドや東南アジアでもこの傾向は強い。なぜ男の子がほしいかといえば、男の子は働いてかせいでくれるけれど、女の子は結婚して家を出てしまうから。家族の面倒を見ない女の子にお金をかけたくないというのが本音らしい。インドでは女の子に持参金をつけて結婚させる慣習がある。持参金が少ないと女性は嫁ぎ先でいじめられる。そのせいで、1日あたり16人もの女性が殺されているんだ。こうした悪しき慣習も、女の子はほしくないという傾向に拍車をかけている。

●「透明児童」の将来はいかに?
これらの国々では、妊娠しても性別診断で胎児が女の子だとわかると、中絶してしまう。生まれてすぐに殺されてしまうこともある。インドのある地区では赤ん坊に熱くてからいチキンスープを飲ませたりする。もちろん死んでしまう。けれど親は事故だって言い張るそうだ。なんて残酷なんだろう。病気になっても、男の子は病院につれていってもらえる。実際、病院に行けば助かるのに、病気で死ぬ女の子はとても多い。ある調査では、インドで下痢で死ぬ率は、女の子のほうが男の子より2倍も高かった。中国では人口を増やさないために「一人っ子政策」がとられている。子どもは夫婦に1人までと国が制限しているのだ。2人目は規則違反だから、親は生まれても役所に届け出ない。こうした戸籍がない子どもは「透明児童」と呼ばれている。かれらは学校へ行くこともできない。公的な援 助も受けられない。透明児童がどれくらいいるかはよくわかっていないけれど、届け出るなら男の子と考える人たちは多いだろう。女の子を差別する風習の問題は根深い。


3.世界の5人に1人は1日1ドル未満で暮らしている。

●1カ月たった3500円でくらせる?
世界には極端に貧しい人たちがおおぜいいる。どのくら貧しいかというと、1日の生活費が1ドル未満、1ドルを116円で計算すると30日で3480円、食費も家賃も入れて、1カ月たったそれだけでくらす。想像できるかい?そういう人が世界に12億人以上、つまり5人に1人いる。食事も満足にとれない。子どもたちは学校にも行かずに、働いてわずかなお金をかせぐ。それでも生きていくのがやっとだ。病気になってもお金がないので、医者にかかれない。体をこわすと働けず、もっと貧乏になる。いくら頑張ってもそういう最悪の状態から抜け出せない。悲しいけど、現在もそういう人たちが地球上におおぜいいるのが現実だ。

●毎月35円を寄付するだけで世界の貧困をなくせる
でも世界で最もお金もちの国ぐにの国民所得の1%を援 助するだけで、これらの人たちを救うことができる。十分な食糧、医療や教育はすべての人に行き渡り、新生児の死亡率も下がり、病気が広がるのを防ぐことができるんだ。2000年に国連は、貧困にあえぐ人の数を半分に減らす目標をたてた。そのために先進国は国民所得の0.7%を貧しい国ぐにに寄付する約束をした。そんなに大変な数字じゃない。君が毎日おこづかいを5000円もらうとすると、そのうち35円を寄付すればいいだけだ。でもこの約束は守られていない。裕福な国ぐにが提供した援 助額は、国民の総所得の0.23%にしかならない。君は11円しか出さなかった計算になる。

●お金もちはますますお金もちに、貧乏な人はますます貧乏に
世界の貧富の差は開くばかり。1960年には、最も豊かな20カ国の国民1人あたりのGDP(国内総生産)は、最も貧しい20カ国の18倍だった。ところが1995年には、その差はなんと37倍に広がっている。お金もちはさらにお金もちに、貧乏な人はさらに貧乏になったことになる。なんとも不公平な話だ。地球上から貧困にあえぐ人をできるだけ減らしたほうがいいのは明らかなのに。


4.ロシアで夫や恋人に殺される女性は、毎年1万2000人以上

●女性に3人に1人はなぐられたり、強姦される被害にあう
君たちはDVという言葉を聞いたことがあるかな?ドメスティック・バイオレンス、家庭内暴力という意味だ。「家庭内暴力」というと、子どもが家の中で暴れるイメージがあるかもしれない。でもDVは、おもに女性が夫や恋人から暴力をふるわれることをいうんだ。女性に3人に1人は、生涯のあいだに、なぐられたり強姦されたり、なんらかの暴力に被害にあうといわれる。とくにロシアではDVの被害が多い。1年間に1万4000人の女性が夫に殺される。じつに43分に1人殺される計算になる。アメリカで2000年に殺された女性は1238人。ロシアでDVがいかに多いかわかるだろう。

●男は女を支配できるという固定観念をなくそう
なぜロシアではこんなにひどいのか。ひとつには貧困がある。生活苦や住宅不足、女性を保護するシェルターの不足も指摘されている。しかし最大の原因は人びとの固定観念にある。ロシアのことわざでは「男がなぐるのは愛しているから」だって。信じられないよね。でもこういう固定観念はロシアに限ったことではない。昔から女性は生きた財産として扱われてきた。娘を嫁がせて、父親は見返りにお金をもらう。夫は妻を買ったのだから、好きにしていい ― そんな考え方が根強くある。現在でも女性が父や夫に絶対的に従わなければならない国がたくさんある。ヨルダンのように女性が不倫をしたり、親が決めた縁談に従わなかったときは、殺してもいいという国もあるくらいだ。1995年に北京で世界女性会議が開かれた。多くの国が参加して、女性への暴力をなくそうと誓い合った。でもあいかわらずDVはなくならない。女性に対する暴力はすべての人に対する暴力だ。どんな暴力も許してはいけない。


5.インドでは4400万人の子どもが働かされている

●1年働いたって12円
世界には学校へ行きたくても行けない子どもたちがたくさんいる。インドでは4400万人もの子どもたちが、学校に行かず働きに出ている。工場で1日12時間から14時間も働いて、1年間で給料はたった12円だよ。ミスをすると逆さづりにされてり、傷口に火薬を塗られて火をつけられた子もいる。ひどい話だよね。国際労働機関(ILO)によると、世界中ではたらいている子ども(5歳から17歳)は2億4600万人いる。世界の子どもの6人に1人だ。そのうち1億7100万人は危険な仕事を、160万人は売春や児童ポルノを、30万人が兵士をさせられている。

●雇い主を罰しても解決にはならない
ではどうしたらいいだろう?子どもたちを働かせる雇い主を罰すればいいだろうか?アメリカの議会が、バングラディシュの洋服工場から製品を買わないように決めたことがある。その工場はたくさんの子どもを働かせていた。圧力が功を奏し、5万人の子どもたちが工場から解放された。ところがその子どもたちは、その後、もっと賃金が低くてひどい条件の仕事場に行ってしまったんだ。働かないと生活ができないからだ。働いている子どもたちは必ずしも仕事をやめたいわけではない。問題は労働に見合うお金がきちんと払われないことだ。子どもが働くことは悪いことではない。家の仕事を手伝ったり、芝を刈ったり、新聞配達をするのは、自分で責任をもつことを学ぶいい機会になる。でももしその労働が、勉強したり、遊んだり、友だちをつくったりすることを邪魔するようなら、大人が手を差しのべてやるべきだろう。


6.世界では7人に1人が日々植えている

●飢えに苦しむ人は8億人もいる
世界では8億の人が、いまも飢えに苦しんでいる。慢性的な栄養失調の人が20億人。飢えや、飢えのせいで病気になって亡くなる人は1800万人。毎年、5歳未満の子どもが1000万人死亡しているけれど、その半分は、栄養失調が原因だ。だけど、地球全体で食糧が足りないわけじゃない。毎年、全人類が十分に食べていけるだけの食糧が生産されている。もしみんなに均等に食糧を分けられれば、だれもが十分に食べることができるんだ。

●戦争と政治の腐敗が飢えをまねく
食糧が足りているのならなぜ、と思うだろう。ひとつは政治のせいだ。自分の国で国民が飢えていてもほったらかしにしている国がある。指導者たちだけがぜいたくなくらしをしていることもある。武力紛争も、飢えの大きな原因となる。戦争になれば、政府は食糧よりも武器を買う。危険なので食糧の輸送もできないし、農業もできない。さらに飢えは国の経済発展を大きくさまたげる。ちゃんと食べているからこそ、仕事の能率も上がる。飢えていれば、満足に働けない。だから経済が停滞する。アフリカのシエラレオネで、農業で働く人の摂取カロリーを平均で50%多くしてみた。つまり食べる量を増やしたんだ。すると農産物の収穫は16.5%も上がった。

●どうすれば、飢えから人びとを救えるか
豊かな先進国は余った食糧をこうした国ぐにに援 助している。これは必要なことだけれど、長い目でみると、飢えを解決することにはならない。アフガニスタンでは、国連から小麦が大量に送られてきたせいで、小麦の価格が下がってしまった。生活に困った農民たちは、もっとお金になるアヘンなどを栽培し始めた。これでは食糧不足は変わらないだろう。飢えが少しでもなくなれば、経済が上向いて人びとの収入も増える。そうなれば、食糧不足を、自分たちの力で解決できるようになるだろう。かれらが自立できるよう手助けすることが大切だ。飢えの問題は、貧困、戦争、格差の問題にもつながっているんだ。


7.世界で3人に1人は戦時下に暮らしている

●紛争地域に住む人、23億3000万人
世界では武力紛争があちこちでおきている。イラクでは国の内部で混乱がおきているし、イスラエルとパレスチナの紛争は解決のめどが立っていない。2005年のデータによると、27カ国で32の武力紛争がおこっている。その地域に住む人の合計は、23億3000万人。じつに世界人口の3人に1人は、戦禍に巻きこまれている計算になる。どんな戦争であろうと、いちばん被害を受けるのは、そこにくらす人びとだ。

●現代の戦争の現実とは
スーダンでは過去20年にわってむごい内戦がつづいた。(1983―2005)。政府と反対勢力との戦闘に、多くの市民が巻きぞえになった。スーダンはいま、世界で最も多くの難民を抱える国だ。人口の10%以上、450万人が故郷を出て避難した。コンゴ民主共和国の紛争では、1998年から2002年の間に300万人以上が戦争や病気の犠牲になった。2002年末に平和協定が結ばれたが、いまだに戦闘がつづいている地域もある。戦後の復興には時間がかかる。ベトナムでは、戦争中(1960―1975)に米軍がまいた枯れ葉剤の影響で、30年たっても作物が育たない。クウェートでは、第一次湾岸戦争(1991)によって原油が流出し、大切な水源である地下水が汚染されたまま。コソボでは化学工場や製油所が爆撃され(1999)、町には黒い雨が降り、発ガン性の高い物質がまきちらされた。これが現代の戦争の姿だ。

●反政府武装勢力と人道的支援活動
反政府武装勢力との戦いはむずかしい。かれらは軍服を着ていないので、民間人と区別がつかない。だから、戦闘の巻きぞえになる被害があまりにも多い。また、かれらは、陣地を確保したり、住民に言うことをきかせるために、爆弾や地雷を使う。かれらが軍事行動をおこせば、必ずといっていいほど住民が被害にあう。戦争を終わらせる努力はつづいている。でもいままさに危機にさらされている人たちを救うため、国際赤十字のような人道的な団体が活動している。それすら、妨害されることも多いんだ。


8.武力紛争による死者よりも、自殺者のほうが多い

●世界の1年間の自殺者は100万人
人生に絶望して自殺する人は後を絶たない。世界保健機関(WHO)によると、2000年には世界で約100万もの人が自殺して亡くなった。自殺しようとした人は、その10倍から20倍はいると推測される。WHOが報告するこの数字は、世界中の武力紛争で亡くなった人よりも多いそうだ。どうしてこんなにも多くの人たちが、自殺してしまうんだろう?自殺の理由は複雑だし、人それぞれちがう。でも、深刻なうつと関わりがあることがいろんな研究でわかっている。自殺者の3分の2にあたる人が、自殺をしたときうつ病だったそうだ。うつはちょっと気落ちしたり、悲しんだりするのとはちがう。うつ病になると、よく眠れず、食べる意欲もなくなり、悲しみや罪悪感で打ちのめされ、衰弱する。

●「人生は生きるに値する」
WHOでは、2020年には、うつ病が世界で2番目に多い病気になると予想している。そして、そのころには、毎年の自殺者は150万人にもなるだろうという。うつ病は、人間関係のもつれ、生活の変化、経済的なダメージなど、強いストレスがきっかけで発病する。また、人はだれもがうつ病になる可能性がある。先進国でも途上国でも、老人も若者も。でもきちんと病院に行き、治療を受ければ、うつ病の約60〜70%は治るんだ。もちろん自殺の原因はうつだけではない。けれど、いずれにしてもまわりの人たちが早く気づき、手を差しのべ、支えることで、自殺する人を減らすことができる。詩人で哲学者のジョージ・サンタヤーナという人は「人生は生きるに値するもだという前提ほど大切なものはない。そう思わなければとても生きていけない」と書いている。どんなに大変でも、わたしたちはこの前提を信じつづけていきたい。


9.世界中の紛争地帯で戦う子ども兵は30万人

●だまされて戦闘員にされる子どもたち
君たちは学校に行き、友だちと遊び、スポーツをしている。ちょうどおなじときに、世界には、誘拐され、家族や友だちにも会えず、ひどい仕打ちを受け、戦地でむりやり戦わされる子どもたちが、30万人もいる。33の国で、政府軍、ゲリラ軍の両方が、18歳未満の子どもを兵士として使っている。最初は、家族とはぐれ貧しい子どもたちに、「食べ物をやろう」「保護してやろう」と誘い、軍に引きずりこむ。荷物運びやスパイから始まって、銃が持てるようになると、すぐに戦闘員にさせられる。地雷があるかどうか確認するため、先を歩かされることもある。女の子だって、兵士にされる。スリランカでは、ゲリラ軍がタミル人の少女たちをむりやり仲間にしている。少女は警備の網をくぐりぬけやすいので、「自由の鳥」と名づけられ、自爆兵として訓練を受けたり、幹部たちの「妻」にもさせられている。

●子ども兵に残る深い心の傷
子ども兵が目にするのは、想像を絶する残酷な光景だ。カラミはわずか15歳で、すでにいくつもの部隊をわたり歩き、6年もの戦闘経験があった。あるとき、家を焼き討ちし、仲間と一緒に一家を殺して、しかもその肉を食べさせられた。カラミは言う。「ぼくは読み書きもできません。家族の居場所もわかりません。いちばんつらいのは将来を考えるときです。ぼくの人生は失われてしまいました。もう生きる希望もありません。夜も眠れません。眠ろうとすると部隊で目撃したことや、自分がやってきたひどいことを思い出すのです」国際法には、子どもの徴兵を禁止する法律もある。それは守られていない。紛争地域の子どもたちになにがおきているか、わたしたちはしっかり見ていなければいけない。


10.世界には今も2700万人の奴隷がいる

●昔よりもいまのほうが奴隷は多い
黒人奴隷を解放したリンカーン大統領の伝記を読んだことはあるだろうか。彼が奴隷解放を宣言したのは1862年、いまから100年以上前だ。ところが、現代にも奴隷と呼ばれる人たちがいる。どこにいるかって?南極大陸を除くあらゆる大陸にいる。そして現代ほど奴隷が多い時代はない。奴隷制に反対する団体によると、奴隷の数は約2700万人。農場や工場で働かされたり、危険な仕事や売春、ポルノ産業に従事させられている。

●親子代々、奴隷という人もいる
奴隷にさせられているのはどういう人たちだろう?いちばん多いのは借金奴隷だ。世界で約2000万人が、多額の借金を負わされて、働かされている。利子がものすごく高くて、給料はほんのわずかだから、いくら働いても借金は増える一方。親が返しきれなくて、その子どもまで奴隷にさせられる例もある。もうひとつの奴隷は強制労働だ。かせぎのいい仕事があるからとだまして、大都会や外国につれていき、逃げられないようにして奴隷にしてしまうんだ。アラブ首長国連邦でラクダレースの騎手をさせられていた少年は、4歳のとき、バングラディシュからさらわれてきた。体重を軽くするため、食事も水もほとんど与えられなかったという。

●奴隷は1人1万円強で売り買いされている
かつて、アメリカ南部の農園で、アフリカからつれてこられた黒人たちが奴隷として働かされていた。かれらはいまの奴隷よりはよかったかもしれない。人が物のように売り買いされるのだから、よくはないけれど、当時の奴隷は、いまのお金に換算すると1人4万ドル(464万円)もしたので、病気になれば治療するなど大切にあつかわれていたんだ。でもいまは、奴隷の平均価格はわずか90ドル(1万円強)。安く売り買いされ、使い捨てにされている。国際社会が協力して、奴隷を許さない世の中をつくりあげていかなければならない。みんなが自由にならない限り、だれも自由ではないのだから。


11.毎年、西欧向けに人身売買される女性は12万人

●だまされて売られていく女性たち
君が発展途上国に住んでいて、とても貧しかったとする。もし誰かから「豊かな先進国に行かないか?いい仕事を紹介しよう」と誘われたら、すぐにその話にとびつくよね。でも、先進国に着いたとたんに売り飛ばされ、奴隷のように売春の仕事をやらされる。給料は「密入国の費用だ」といってとりあげられ、警察に逮捕されれば強制送還されてしまう。故郷に帰っても人びとから白い目で見られ、つらい思いをしなければならない・・・・・女性の人身売買はこんなふうにしておこっている。いまでも、年間に約12万人の女性が西欧に人身売買されている。その多くは旧ソビエト連邦諸国や東欧の出身だ。アフリカ、アジア、南米から送られてくる女性もいる。日本でもフィリピンの若い女性が「エンターテイナー」という資格で入国し、奴隷同然に働かされている。

●恐るべき犯罪ネットワーク
女性を売買する取引業者は、巨大な犯罪ネットワークをつくりあげている。まずは女性たちを誘う職業紹介所がある。そしてパスポート偽造業者、密入国のための輸送業者がいて、新人女性の品定めをする場所、女性たちを閉じこめておく建物があり、インターネットで客を集め、売春施設に送る。もはや一大産業といってもいい。この人身売買産業で、年間70億ドル(8120億円)が動く。同じようなネットワークが世界各地にあるんだ。

●被害にあった女性たちのケア
国連は2000年に「女性や子どもの人身売買を取りしまり、罰する」ための議定書を採択した。この議定書は、人身売買を禁止する法律や、被害にあった女性たちの保護を各国に求めるものだ。被害者の女性のほとんどは、不法入国者としてすぐに国外追放になる。でもそれでは女性がうけた心身の傷はまったくケアされない。"犯罪の証人"を失うことにもなる。イタリアでは証人保護法という法律をつくって、被害者に6カ月のビザを与え、カウンセリングを受けさせている。おかげで人身売買を告発する起訴件数は4倍に増えた。アメリカも臨時のビザを出し、裁判がつづく間、女性たちがアメリカに滞在し、裁判で証言できるようにした。犯罪の取りしまりに向けて、少しずつ前進している。


12.貧困家庭の子どもは、豊かな家庭の子どもに比べて、3倍も精神病にかかりやすい

●貧しい子どもたちの厳しい現実
イギリスは世界で4番目にお金持ちの国だ。それなのに、先進国のなかで、貧しい子どもの割合がいちばん多い。イギリスでは400万人近い子どもたち、つまり3人に1人はものすごく貧しい生活をしている。そうした貧しい子どもの数は、1970年とくらべて3倍に増えた。貧しい家庭に生まれた子どもは、豊かな家庭の子どもたちにくらべて、生後1週間で死ぬ確率も、子ども時代に事故にあって死ぬ確率も高く、寿命も短い。おまけに、最も貧しい家庭の子どもたちは、最も豊かな家庭に育った子どもたちにくらべて、精神病にかかる確率が3倍も高いんだ。イギリス統計局によると、1週間の収入が100ポンド(約2万円)未満の家庭にくらす子どものうち16%が、精神的に問題を抱えている。一方、週給500ポンド以上の家庭では6%ていどだ。

●貧乏な人はいつまでも貧乏な社会のしくみ
日あたりが悪くてじめじめした住まい。夏休みもどこにも旅行に行かず、家庭で食事に出かけることもない。そんな貧しい環境で大きくなった子どもたちは、進学もむずかしい。進学できなければ仕事も満足に見つからず、見つかっても賃金は低い。ずっと貧しいままだ。すると、お金もちとそうではない人との間には大きな所得格差が生まれるよね。イギリスの所得格差は、1990年代に大きく広がり、いまでは1977年の2倍になった。お金もちはよりお金もちに、貧乏な人はより貧乏になったんだ。貧しい家庭に生まれた子どもは、一生貧しいという社会のしくみができあがってしまっている。イギリス政府もようやく貧しい子どもたちの問題に取り組みはじめた。もし子どもの貧困問題が解決できたら、年間に15歳未満の子ども1400人の命が救われる。しかしほんとうに貧しさから子どもたちを救うためには、社会のしくみそのものを変えるくらい、大きな発想の転換も必要だろう。


「みんなで考えよう 世界を見る目が変わる50の事実」より

ジェシカ・ウィリアムズ 著

草思社


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