頂き物

□時の流れの紡ぐもの
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「それを訊くのか、ヤコよ」
「…え?」
「知りたいのか?」

唐突に、雨が激しくなっている事に気づいた。

それは、私達の間に降り注ぎ、視界を遮った。
でも、お互いの瞳だけは何故か見失う事なくお互いを映す。

雨は檻となり、私達を閉じ込めた。

私達が出会ってから、どれだけの雨が降っただろう。
何を潤し、何を密かに育て、何を隠してきたのだろう。
時の流れが、いつしか紡いで居た物が、今、その正体を現そうとしている。

そう、その時、何かが掛け違ったのだ。

そうして出来た綻びから、目の前の男が、私から隠して来た物が現れようとしているのだ。

時が魔人にもたらした物。
それは、私を命の危険から守った物。
考えるより先に、ネウロに私を庇わせた物。


「貴様に、その覚悟はあるのか?
魔人の、人ならぬ者の内を覗い知る覚悟が」
「かく、ご…」

雨の音が、聞こえない。
冷たいはずの雫も、感じない。

聴こえるのは、ネウロの声。
視えるのは、ネウロの目。
感じるのは、ネウロだけ。

「ヤコ、聞けば後戻りはできんぞ」


でも、射抜かれてしまった私の心。
その先の言葉を待つことしか出来ない。
もう、泣く事も喚く事も出来ない。

何故、その時、振り向いてしまったのだろう。
それさえ無ければ、何も知らずにすんだのに。
こんなに激しい渦に飲み込まれずにすんだのに。
だけど、もう遅い。
遅いんだ。

「聞かせて…ネウロ」
「もう一度問う。
良いのだな、ヤコ」
「うん」

魔人が、待ち焦がれていた時がやってきた。
ちいさな少女を、その腕に抱く時が。
密かに紡いだ感情の糸。
絡め取られた少女は、もう逃げる事はできない。
だが、焦がれていたのは少女も同じだったのだと、彼女自身も気づいてはいなかった。
彼の役に立たない自分を嫌悪したのはなぜか。
制御しきれない自分が、彼を傷つけることを厭うたのはなぜか。
魔人が自分を守るように、いつしか少女も魔人を守りたいと願っていた。

二人が知らず紡いできた糸は、運命により赤く染められ、今、一つに縒り合わされようとしている。

「桂木弥子…」


end
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