過去へのトビラ。
□孤独な幽霊
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チヅルが家族として一緒に住み始めた日は、依頼人が来なかった。しかし、その手紙が来たのは朝。日曜日の肌寒い朝に、郵便受けの中に入っていた一通の洒落た手紙。赤い印章で留められていた。
『手紙が届いている。イギリスからだ。』
『イギリス?』
チヅルがその手紙をイムに渡した。差出人の名前も書いてあるが、イギリスに知り合いなど居ないはず。
『お前の父親じゃないのか?リョウ。』
『今、父はトリーゼンに居るはずだ。イギリスからなど来ない。』
チヅルが言った。今チヅルの手には黒いメモ帳が握られている。きっと、父親のスケジュールが書いてあるのだろう。
『チヅルに覚えは?』
『無い。』
ハッキリと答えるチヅル。リョウがそっと耳打ちした。
『トリーゼンって、何処?』
『リヒテンシュタインの旧ファドゥーツ伯爵領のオーバーランド。リヒテンシュタインでは三番目に大きい基礎自治体。』
『へぇー。』
半ばよく分かっていないリョウを他所に、手紙を見回すイム。
『差出人は…パトス・ラヴィングリー…?聞いたことあるか?』
『ねぇ。』
『なぁいよぉ?』
『無いな。』
『じゃぁ…イギリスからの依頼の手紙なのか?』
イムが印章を剥がして中身を見てみる。白い便箋に、綺麗な筆記体で文章が書かれていた。
『なぁに?何て書いてあるの?』
『今訳してやるから。』
イムはその英文を見つめて言う。(これでもイムは学年一位の座に君臨してるぞ♪)
『゛初めまして。急なお手紙で失礼致します。私はパトス・ラヴィングリーと言います。過去変え屋さんの噂はお聞きしております。何分にも私は今外に出る事が出来ない状態で、直接会いに行く事は出来ないのですが、どうしても依頼したいのです。私の過去を変えてください。
私は、今一人ぼっちです。母と父は何年も前に亡くなり、家に残されてしまったんです。そして、どうしても他の人が必要な理由があります。父と母に生き返って欲しいなどとは願わないので、お願いです。遊びに来てくれるだけで良いのです。昔の私と遊んであげて、どうか、楽しい思いをさせてあげてください。お願いします。"』
『依頼のお手紙だったねー。』
『…昔の自分を楽しませる…か。前にも同じような事あったよな。』
『あったあった。でも今回はイギリスだぜ?俺達英語話せないし…。』
『一回…本人に会ってみるか。』
そう言って、リョウは立ち上がって台所に向かった。
『え?』