過去へのトビラ。

□ゆめ
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今まで見たことも無い、激しく惨い銃撃戦が繰り広げられていた。

自分以外は皆、影のように黒く見える。

自分はその銃撃戦の最中、何もせずただ、銃を構え前方に撃ち続けている、仲間と思しき人物の後ろにいるだけだった。

コンクリートを無理やりひっぺがした、即席の盾が、自分とその人物を守っていた。

目の前の人物の肩に銃弾が掠った。

一瞬痛がる様子を見せたが、その人物は気を取り直して銃を撃ち放った。

自分がその人物の隣を見ると、同じく人が居た。その人物は、散弾銃を何の躊躇も無く撃っていた。

見た限り、今自分と此処に居るのは、二人だけのようだ。

散弾銃の人物が、隣の人物に何かを話した。口をパクパクとさせているだけで、何も聞こえなかった。

隣の人物は頷き、散弾銃の人物から散弾銃を預かる。無防備になった人物は、立ち上がり、地面を力強く蹴った。

高く高く飛び、それに注意がいった相手を、散弾銃が次々と消してった。散弾銃で狙っていない者まで消えた。どこか遠くで誰かがライフルで狙っているのかも知れない。

自分は一体何をしているのだろう?

銃を放っている訳ではなくて、サポートをしている訳ではなくて…。

自分の役割とは一体何なんだろう。

考えた瞬間、自分の頬に銃弾が掠る。

目の前の人物が、自分を心配して振り返る。

《                          》

聞こえなかった筈なのに、その人物が放った言葉で、何故か、救われた気分になった。すると、相手の方に異変が起きた。一度に大勢が消されていく。

さっきの散弾銃の人物が、陣内に入って大暴れをしているようだ。

やがてそれにも無理が来て、吐き出されるようにその人物は傷だらけで転がった。

その人物に向けられる銃。

銃声と共に、銃弾がその人物に向かって突き進む。

と、間一髪の所で、その人物は、赤い馬に乗った赤い人物に助けられた。

ふと目をこすると、影が影ではなくなっていた。見える、ちゃんと人として見える。

倒れた人物を助けたのは、ベリトという、確か幽霊依頼の時の人物だ。
自分は、助けられた人物に駆け寄った。

これは、リョウだ。

傷は痛々しく、傍にあった簡易救急セットで応急処置をした。

それでも、銃撃戦はまだ続いている。

すると、隣の建物から在りえない程の銃弾が雨の様に降り始めた。

避ける間もなく次々と消されていく相手。

《チヅル…過保護発動…か。ははっ。怖ぇ。》

今度は、口パクではなくちゃんと聞こえた。

チヅルが、リョウがやられたのをみて、ライフルを散弾銃の様に乱射してるらしい。正確に当たっているのが更に怖い。

しかし、撃っても撃っても相手の数は一向に減らない。やがて、建物内から人影が走って、転がり込む様にこちら側の陣内に入った。

《弾切れだ。》

《とりあえず、これ使って。》

おかしい事に気づいた。目の前の人物だけ、黒いままだった。声は聞こえるのに。

チヅルは、その人物から散弾銃を受け取り、リョウと同じく撃ち続けた。

《この際、悪魔総動員させるか。あいつ等は撃っても死なん。》

《できれば、それは最後の手段にしたいな。》

影が苦笑した。もうすぐで、こちら側の弾が切れる。相手もその瞬間を狙っているだろう。

《多勢に無勢とはこの事だな。よもや、私達が負けそうになるとは。》

《まー…こんなに人数揃えて来るとは思わなかった…から、な。》

リョウが傷口を押さえつつ苦笑した。

《イザとなりゃ、俺の馬は二人くらいは乗せて逃げられるぞ。》

《逃げるのは得策じゃない。》

《…だよな。任務遂行しなきゃ意味ねーな。》

《ああ。》

影は、前方に次々と銃弾を撃つ。一見、乱射しているように見えるが、その弾はちゃんと当たっている。

《ベリト、今嘘を言えば貴様のその自慢の二枚舌を引っこ抜く。》

《だいじょーぶ。俺はチヅルには嘘吐かないってきめてんだwwって事で、ホント言うけど、あと百は居る。》

《あと百か…一気にカタつけて…。》

チヅルの頬を弾丸が掠った。

《大丈夫?》

《ああ、問題ない。私が突っ込む。援護射撃頼むぞ。》

《了解。》

チヅルが銃を捨て、ベリトの馬に乗って、リョウと同じく高く飛んだ。

気の散った人間から消されていく。一時も集中を途切れさせる事は許されない。

《うらぁぁぁぁぁ!!》

チヅルが相手陣内に入り、大暴れを始めた。ベリトも馬で蹴散らし、素手で殴る。その二人を銃で狙う人間を、イムは狙い撃ちをした。

《あとちょっと。あとちょっとだ。》

チヅルが限界を感じ、ベリトと共に戻ってきた。また、傷だらけだ。

自分はチヅルに応急処置をした。

《そろそろ限界に近い。お前を出していられるのもあと僅かだ。戻れ、ベリト。》

《気をつけてな。》

ベリトが煙となって消えた。

自分が心配そうに見ていると、チヅルが笑った。

《なに、あと数分もすればベリトより少し上のランクの悪魔を呼べる。大丈夫だ。》

負傷者二人で、自分は今の段階では役立たず。これではどうしようも無い。

《ちょっと余裕持って来たつもりなんだけど…。これじゃぁな…。》
     ・・・
《チッ…。ドルネめ…。》

自分の知らない名前が、チヅルの口から出た。首を傾げていると、トントンと肩を叩かれた。

《今からちょっとの間、相手の視線を逸らす。その間に建物に入って、地下二階にあるメインコンピュータのデータをUSBメモリーに入れて来い。バックアップ機能も全部駄目にしろ。》

その言葉に頷き、USBメモリーを持って、コンクリートの盾の端っこに来た。

影が爆竹を手に取り、炎をつけて建物を反対方向に投げた。

その瞬間、自分は走り出して、建物の中へ転がり込んだ。目の前に何があるかも確認せずに、真っ暗な中走り出した。階段を見つけ、一気に駆け下りた。

メインコンピュータと思しき部屋を見つけ、ドアを開けた。鍵が既に開いていた。

真っ暗な中、大きなコンピュータが動いていた。

バックアップ機能を壊し、USBメモリーを差し込んだ。念のためドアに鍵もかけた。

外では銃撃戦の音がまだ聞こえた。

パスワードを解析し、読み取りが始まった。

読み取りの早いUSBメモリーだが、流石に量が多い。ただ待っている事しか出来ないと言うのは凄く辛い。


数十分後、やっと終わった。気がつけば、銃撃戦の音も止んでいた。二度とこのパソコンを使えないように、線を一本切ってショートさせた。

USBメモリーを懐に仕舞い、急いで仲間のもとへと駆けた。走るのが得意ではない自分が、何故かいつも以上に速く感じた。

建物を出ると、予想外の惨状が待っていた。

チヅルとリョウが、また新たな傷を作っていた。銃が転がり、影の人物は、右腕を押さえて立っていた。盾は粉々に粉砕。

相手はまだ五人ほどいた。一番後ろに立っている、仕立ての良い服を着て偉そうにしているのがターゲット。

自分は、本能的にチヅルとリョウと影の下へ走った。影が慌てて、戻れと叫ぶが、自分にはもう聞こえていなかった。

パンッ!

銃弾が、右足に貫通した。足のバランスを崩し、倒れこんだ。右足から熱に似た痛みが伝わってきた。それでも無事な方の左足で、何とか這いずってチヅルとリョウの所へ行った。

息はしている。目も開いている。

安堵の溜息を吐くが、自分が此処に来た事で状況が変わった訳ではない。

《…仕方ないな。》

影の人物が、頭に手をやった。スッと、影の黒さが消えていった。髪の毛も肌も見える。影ではなくなった。

その人物に見覚えがあった。その人物は、ゴーグルを取ると、こちら側に投げ渡した。

《あと五人だ。俺はまだ頑張れるし、弾は無くてもナイフなら残ってる。》

《待てよ!俺達もまだっ…。》

《この中でまだ軽症なのは俺。じゃ、行ってくる。コレも邪魔だな。》

寝るときも、風呂に入っている時でさえ外さなかったヘアピンを、その人物は今、初めて外した。

《コレも頼む。》

そのヘアピンも、わたされた。

《…じゃ、行って来る。》

僕達に背を向けて、行ってしまう。

《待って、イ》










『ム…?』

目を覚ますと其処は、いつものルイの部屋だった。

『ん〜…?』

目を擦り、起き上がる。目覚まし時計を見ると、まだ朝の三時だった。

『…お水ぅー。』

ベッドから降りて、台所へ向かった。

誰も居ない台所に明かりをつけ、コップを持ってキュッと蛇口を捻った。

怖い夢を見た。

蛇口を逆に捻り、水を止めた。コップに口をつける前、あの光景を思い出した。

自分達がやられる筈がない。

ルイは一気に水を飲み干し、コップを洗って台所の明かりを消した。

とてとてと危なっかしく走って自分の部屋に戻った。そして、ベッドにもう一度潜り込むが、なかなか寝付けなかった。
しばらくゴロゴロしたあと、起き上がって机に向かい、パソコンを起動した。

一見すると、パソコンではなく灰色と黒の何かのボタンの付いた棒に見えるそれ。起動すると、ディスプレイとキーボードが三次元に浮かび上がる。

タッチパネルも可能。しかしルイはタッチパネルは大体急ぎの時とゲームの時しか使わない。

朝になるまで、ゲームをして暇を潰した。
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