過去へのトビラ。

□声の
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がさがさ。


手に持った、お供え用の花が揺れる。
学校からバスで十五分。墓地がある。

右に曲がって、左行って右行って右右、左。

端から七つ目。

(…久しぶり。)

花を添えて、水をかけて、線香をそえる。

(去年は来れなくてごめん。)

言葉には出せないけど、心の中でそう呟く。

(明後日、ライブやるんだ。お前のギターも持ってくから。聴いててくれ。)

手を合わせた。

(…折角、お前に助けて貰ったのに。約束守れなくて、ごめん。)

暫く墓石を見つめた。

(じゃあ、そろそろ帰る。また。)

鞄を掴んで、立ち上がる。道の方を向く。

歩き出す。

右へ行って、左行って、左左、右、左。

バスを待って、乗り込んだ。

(あれから…四年、かぁ…。)




青少年歌合戦地区大会小学生の部で優勝した。
二人組で、初出場だった。

問、おめでとうございます。
答、ありがとうございます!
問、今の感想は?
答、みんな上手いし、心配だったけど、優勝して死ぬほど嬉しいです!


四年前の雑誌に書かれた、優勝者に対するインタビュー。
答えたのは、俺の親友だ。

問、おめでとうございます。
答、ありがとうございます。
問、今の感想は?
答、とてもとても嬉しいです。

同じく、優勝者に対するインタビュー。
答えたのは、俺だ。
俺が七歳の時。          アリミチユメ
幼稚園の頃からの付き合いだった、有道希望という少年から誘いを受け、一年後開催される青少年歌合戦地区大会に出場する事になった。
そして、結果は優勝。
ユメがギターで俺がボーカル。
次は都大会だと、意気込んでいた。


…昔の栄光に浸るのはやめよう。


















『チヅルー。シーズンズのCD貸すー。』

『ああ。ありがとう。』

リョウが持ってきたCDをCDプレイヤーに入れ早速再生。

『!!これは…。』

チヅルが驚愕する。

『どした?』

『…この、ギター…まさか、YUME?!』

『YUME?違う違う。ギターはフユ。』

『フユ……まさか、その本名はアサヤフユキか?』

『ああ、そうだけど…。』

『…なんて、ことだ…。』

『どした?』

チヅルの様子が、明らかにおかしかった。

『…昔、一度日本に来た時、新聞で彼を見た。テレビでもだ。』

『フユを?』

『…天才、秀才だと褒め称えられていた。ボーカリスト、フユキ。』

『フユがボーカルぅ?だってアイツ、私生活でも全然喋らねーし。身振り手振りで会話するし。』

『…何があったかは知らんが…このギターの音は、フユキの相棒、ユメの音に似ている。』

『…ちょ、ちょっと待て。ルイー!!』









「あ、フユー!」

「フユくーん。」

「おーフユー。」

手を軽く挙げる。

「もう用事は済んだのか?」

こくっと頷く。

「ちくしょーお前が先に帰った所為で俺がドーナツ奢る感じになっちゃったんだからなーぁ。」

(それはドンマイ、と、親指を突き出す)

「どちらにしろ、片付けは一番遅いんだから。」

「それがアキの欠点な。もっとこう、ぱぱっとやれねーの?」

「だぁってさ、つい、丁寧に丁寧に、って思ってるとさ…。」

顔を真っ赤にするアキ。
ナツがおもむろにインスタントカメラを取り出し、シャッターを押す。

「はぅぅ〜アキちゃんの赤面、いただきまーす♥♥♥」

「あ、てめっこら撮るな!」

ちなみに、ナツは所謂「ジャニオタ」「アイドルオタク」だ。
一組のアスカとは相容れない存在だ。
まぁ、そんな事はどうだっていいとして。

「あ、ねぇ!これからカラオケ行きましょう!フユ君の歌も聴いてみたいし。」

…それは困る…。
カラオケ行く所か、音楽の授業でさえもストレス感じてるのに…。

「だーめだめ。アタシ今金欠病というおもーい重い病に罹ってるの。」

「俺も右に同じ。バイトの給料日が近いから、その後にな。」

「えー…じゃあ、フユ君、二人で行く?」

(パス、バツマークを腕で作る)

「みんなツレナイのねぇ…。」

しょぼん、とするナツ。

「じゃ、アキの給料日になったら全員でカラオケな。」

「え、何か俺が奢る感じになってんの?」

「やだぁ〜♥奢ってくれるの〜♪」

「奢らねーよ?」

(頼んだ、と肩を叩く。)

「奢らねーよ!」

「カラオケよりもさー、今度あれだろ、夏休みだし、みんなでキャンプ行こう。んでもって、焚き火しながら歌おう。」

「お、それいーね!」

「一日目はお弁当持って行きましょうね。」

(ギターも持って行こう、と、エアギター。)

アハハハ、と笑いが誰からとも無く沸いて出る。
夕焼け空。部長と、部員三人の軽音楽部が道を歩く。
…これでいい。

(俺の人生は、こんなものでいい。)
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