夢見処〜シロガネ〜
□七夕なんだって
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ちょっ、それ違うよ!
(ほのぼの/甘/志村新八)
七夕なんだって
そう、今日は七月七日。
彦星と織姫で有名なあの七夕の日だ。
かぶき町もそれなりに浮かれてはいるけれど、いつもとあまり変わらない。
――ただ一人を除いては。
「ねぇねぇ新八、あれも準備しなきゃいけないよね!」
「あれ? あれって何?」
「んーと、えーっと……あ、ススキ! ススキだよ! もう、ダメじゃん大切な物忘れちゃあ!」
「いやいやそれお月見の時だから! 七夕に必要なのは笹だから!」
「え、どっちも一緒でしょ?」
「違う違う違う」
「うーん。知らなかった」
というのも、これは天然なんかじゃない。
彼女は本当に知らないのだ。
人間らしい生活をするようになったのは、ここ近年のことだから。
少しずつ、少しずつ。
銀さんや神楽ちゃんと一緒に“当たり前な日常”を教えて過ごしている。
「うぉーい。喜べー。笹もらって来たぞー」
「ええーっ!? ほんと、銀さーんっ!」
出先から戻った銀さんをパタパタと出迎える彼女……に、ちょっとムッとしてしまった僕は心が狭いのだろうか。
いや、きっと誰だって嫉妬するさ。
何てったって銀さん、いつもいい感じのタイミングで女の子の心を掴むのがうまいんだから。
「わぁっ! すっごぉー……い?」
「なぁに、嬉しくないの? 笹の葉だよ? お前が喜ぶんじゃないかなァって銀さんもらって来てあげたんだけどォ」
「銀さん、これが笹なの?」
「そうだよ、正真正銘の笹だよ。こーんな立派な笹、俺は見たことがないね」
嘘だ。僕はそれより大きい笹を何遍も見たことがあるぞ。
銀さん、彼女が笹を知らないのをいいことに自分の株を上げようとしてるな。
……そんなもん、ぶっ壊してやる。
「違うよ、それは笹のほんの一部であって本来の笹はもっと大きいよ。銀さん、嘘教えないで下さいよ」
「新八ィ、俺がいつ嘘教えたって? 笹だろこれ。笹以外の何物でもないだろ」
「言い方の問題だって言ってるんです。大体、銀さんは…」
ついでだから日頃の恨みを晴らそうと腰に手を当て、説教モードに入った僕を、彼女が遮った。
「新八。せっかくの行事なんだから、銀さんとじゃなくてあたしと過ごしてよ」
少し頬を膨らまして、上目遣い。
これが効かない男がいたら会ってみたい。
たったこれだけの仕草で。プラス、言葉で。
僕のさっきまでのモヤモヤは晴れる。
何て現金なんだと自分でも思う。
「え、なにお前、俺とじゃなくて新八と過ごしたいの? 笹持って来てやったのは俺なのに?」
「あ、うん。笹は嬉しいよ! ありがとう、銀さん! でもごめんね、一緒に過ごしたいのは新八なの」
「ハアァァ。そーかいそーかい、ごっそーさま。勝手にいちゃこらしてな」
銀さんは深い溜め息をついて笹を手渡し、ボリボリと頭を掻いて奥へと進んだ。
彼女は相変わらず「ごめんねー!」と明るく声をかけている。
……何だろう、この気持ち。
やばいよ。もう死んでもいい。
ごめんなさい、銀さん。
めちゃくちゃ嬉しいです。
こんなヘタレで取り柄も何もないメガネなだけの僕が、銀さんに勝ることがあるんだ。
「ほら新八、笹は手に入ったよ! 次、何するの?」
「……うん、次は短冊かな」
「お願いごと書くやつ?」
「そう。一緒に作ろうか」
「うんっ」
そう笑った彼女の顔はとても可愛くて。
僕はこの笑顔をずっと隣で見ていられるよう、祈ろうと思った。
*End*
(あたし、織姫さまの気持ち分かるなぁ…)
(え?)
(あたしも新八と出会ってから毎日何も手につかないくらい幸せだから)
(……うん、僕も)
ってことで七夕なので新八夢!(笑)
楽しいです、めちゃめちゃ。
これの甘はノリノリで掛けます。
また書く機会があると思うので、少しずつ彼女の過去にも触れられたらいいなと思いますが…。
このまま触れずに今の幸せだけを書くのもいいなとも思います。
とにもかくにも、今日は七夕。皆さまの願いが叶いますように。
2011.07.07