夢見処〜ヒツガヤ〜


□真っ白な雪を
1ページ/1ページ






愛してた。……愛してる、

(切/涙/歌詞小説/ss)
Birth&X'mas企画











真っ白な雪を
















雪が降るほどではないが、クリスマスの今日は例年通り寒かった。


ふと地上を見下ろせば、二人で何度も通ったケーキ屋の前で、手のひらに息を吹き掛けるお前の姿。

赤いコートに毛糸のニット。毎年この日だけは同じ格好をする。

何もかもがあの日と変わらない。が――今年だけは、いつもと違う点があった。


「……悪ィ! 待った?」

「ううん、全然」

「ケーキ買ったのか?」

「うん。ちょっとね」



半年前に出来た、お前の新しい恋人。サバサバしているが優しい男だ。

お前は俺に後ろめたい思いがあるようだが、俺は寧ろほっとしている。

去年の暮れ、お前はまだ泣いていた。

何の前触れも無く突然いなくなった俺は本当に最低で、歯痒い思いを何年もした。

今年やっとお前は涙を飲み込んだ。それを素直に喜べる。


お前はそっちの世界で、自分の幸せを思い描け――。


「イルミネーション、綺麗だね〜」

「ああ。カップルだらけだな」

「そりゃそうよ。今日は恋人達のクリスマス、でしょ?」

「まあなー」

「あ。きよしこの夜だ」

「毎年聞くよな」

「クリスマスソングですから」



直接会えなくなって、随分経つ。

あの時のお前は見るに耐えられないほど荒れた。だから、元気でやっている姿を見る度に安堵する。

何もしてやれない俺が、唯一出来る事…。


「なあ、」

『はい』

「雪、降らせてくれないか」

『――雪?』

「頼む」

『降らせたら、共に行くべき場所へ』

「行こう」

『分かりました。頼んで参りましょう。……今日は、クリスマスですから』


雪が降れば、人目も気にせず寄り添えるだろ。

ちょうどクリスマス。俺からのプレゼントだ。










ふわ…っ。


間もなくすると、小さな雪が降り出した。

手のひらに乗せれば通過する雪の結晶。それを辿るように目を落とせば、お前の姿を見付けた。

大勢の中から、いとも簡単に。


「あ、雪……」

「ホワイトクリスマスか。久し振りだなぁ」

「なんかいきなり寒くなったね?」

「……ほら来い」

「やった」



男が広げたコートの中に入り込んだ。幸せそうに笑うお前を、この目に焼き付ける。


「……じゃあな、」


そう声を落とす。

愛しい、お前へ。


「……?」


――――ッ!?


「どうした?」

「んーん、何でもない」



一瞬……目が合ったような気がした。

そのまま俺の視界から消えてゆくはずだったのに。


(………くそッ)


いい加減、見切りを付けたつもりだったのに。

目が合ったような気がした瞬間、何かを期待した。


(っとに……最低だな)


自嘲気味に笑えば、ふわりと白装束の女が姿を現す。


『雪は降らせました。約束です』

「……ああ。何年も待たせて悪かったな」

『行きましょう』


名残惜しいが、俺には行かなければならない場所がある。

人が天国と呼ぶ場所へ。


「来年も……遠くから、祈っている」


今まで流れなかった涙が、一筋頬を伝った。


「ね、少し付き合って」

「ん?」

「冬獅郎の墓参り。やっと、いつものケーキが買えたの」

「いつものケーキ?」

「冬獅郎の誕生日をね、毎年クリスマスに祝ったの――この日に。だから今年もちゃんと誕生日おめでとうって言ってあげたい」

「そうか…。ま、俺もちゃんと挨拶しときたいしな。行くか」

「うん」



――願わくば、流した涙の数だけ笑顔が訪れるように。


*End*













ハッピーバースデー、日番谷くん!
それからメリークリスマス、皆さま!
……と言うわけで、何とか仕上がりました。
冒頭にも書きましたが、歌詞小説となっております。
FUNKY MONKEY BABYSの「ぼくはサンタクロース」です。
ほぼ歌詞に添いました!
本当に良い曲なので、是非聴いて下さい!
Happy Birthday,Toshiro.And Merry Christmas to you.

2008.12.20


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ