夢見処〜シロガネ〜
□言えない!
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やっぱり言えない!
(ほのぼの/沖田総悟)
言えない!
「オイ、何で言わなかったんでィ!」
ある日、真っ青になって部屋に飛び込んで来たのは、普段取り乱すことのない上司の沖田総悟だった。
「……沖田、隊長?」
私は何故彼が真っ青なのか分からず、訝しげな声を上げてしまった。
とりあえず布団から出ようとして、固まる。
「………っ!」
どうしよう。痛みでこれ以上動けない。
堪えきれなくて前に屈むと、沖田隊長がすっ飛んできた。
「寝てなせェ! 何か欲しいなら俺が準備してやるから!」
「済みません…。というか、どうかしましたか? 私、今日は非番ですが…」
「どうしたじゃねェ! 何で黙ってた!?」
「黙ってたって…、何をですか?」
「隠すのはもうやめにしなせェ。病院から出てくんのを見たって奴がいるんでィ」
「あ…っそれは…!」
やばい、見られてたんだ。
真選組の連中にはバレないように細心の注意を払っていたはずなのに。
「何で…体調が悪いって、言ってくれなかった…。そんなに俺は頼りねーのかィ」
「そんな、違います! 恥ずかしくて言えなかったんです…、済みません」
「謝るな! ……余計、情けなくならァ」
「沖田隊長…?」
どうしたんだろう。
こんなに落ち込んでる沖田隊長なんて見たことない。
「どのくらい…、悪いんでィ」
「悪いっていうか…重いっていうか…」
「重い!?」
「や、あの、何て言ったらいいのか分からないんです。でも大丈夫です、あと数日休めばまた復帰出来ますから」
「馬鹿言ってんじゃねェや! 仕事はいいから今はしっかり休みなせェ。俺も出来る限り看病しまさァ」
「か、看病って…そんな大したことじゃないんですから」
「そんな真っ青な顔してどこが大したことないんでィ!」
「それはたくさん血が流れたせいで少し貧血気味なだけですよ」
「貧血!? ますます大人しく寝てなきゃダメだろィ!」
「す、済みません…」
な、何なんだろう。どうしてそんなに慌てて…?
「俺ァあんたに死なれたら困るんでさァ」
「………は?」
「病気が何でィ。そんなもんに負けるほど弱かねーだろ」
「沖田隊長? あの、話が見えな…」
「だからとっとと治しな。バカ女」
……………、あれ?
もしかして、いや、もしかしなくても、沖田隊長何か誤解してる?
「沖田隊長、いますー? お粥持ってきましたよー」
「お、サンキューな山崎」
「いえいえ。ではごゆっくり〜」
山崎さんはお粥の乗ったお膳を置いて、障子を閉めて去って行った。
あの人は何かいつも通りだから多分、誤解とかしてるわけではないはず。
え、何でこの人だけ誤解してるっぽいの!?
「ほら、食わしてやるから少し起きなせェ」
「は!? いや、自分で食べれます!」
「遠慮すんな。俺ァ心を入れ換えたんでさァ。素直に聞きなせェ」
こ、心を入れ換えたって何ですかァァァア!!!!!!
最近のどこに心を入れ換える要素があったんですか!?
私!?
あの、私のせいなんですか!?
「ふー、ふーっ。……ほら、口開けろィ」
ほえぇぇぇええ!?
か、可愛い!!
じゃなくて何でふーふーまでしてくれるのォォォオ!?
逆に怖いよ、何でこんなことになってんの!!!!
「何でィ。俺の食わす粥は不味いってーのかィ」
「いえいえいえとんでもない! い、いただきます…っ」
ぱく。うん、お粥。
って食べてる場合じゃないよ!
早く誤解解かなきゃ後が怖い!!
「あ、あの、沖田隊長!」
「他に何か欲しいもんは?」
「えっとお水……じゃ、なくてですね!」
「ほら水」
「ぁ、ありがとうございます。……じゃなくて!」
「食ったら早く寝ろ。治るもんも治らねェ」
「………ハイ」
やばい。言えない。
どうしよう。ここまで至れり尽くせりでこんなに優しくなられたりしたら。
実は生理なんです、なんて言った日には―――こ、殺されるッ!!!!!!
「何かあったら言えよ。すぐ飛んできてやっから」
「ぁ……ありがと、ございます…」
「これからは何かあっても隠すんじゃねェぜ。心臓、いくらあっても足りねーや」
「すすす済みませんでした! もう何っにも隠しません!! ええホント、何っにも!!!」
「分かれば良し。じゃーな」
……ど、どどどどどうしよう。
数日後に「新薬が効いて治っちゃいました。てへ」とか言ったら信じてくれるかな。
いやだって何でこんなことになってるのか今なおよく分かってないよ、私。
いつもより重い生理がきて、出血量が半端無かったから用心で病院に行っただけなのに(そして異常無し)。
大体、生理ですなんて普通の女の子は男の子に言えるもんじゃないのに。
もォォォォどうしてこうなるのォォォ!!!!
あんな心配されて、柄にもないことさせて、柄にもないこと言わせて、ただの生理でしたなんて…。
や、やっぱり―――言えない!!!!
*End*
(局長、一ヶ月くらい休み下さい。入院してきます)
(え、どしたの!?)
(じゃないと私、殺されるんです)
(え、えぇぇぇぇぇ!?)
何でこうなったのか私にもよく分かりません!
誤解してお見舞いする沖田くんと、それを受けて焦りまくるヒロインが書きたかっただけです。はい。
好きな人のことになると余裕を無くしちゃうものですよねぇ^^*
2010.8.1