企画提出作品

□流せなかった涙
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朝、携帯の着信音で目が覚めた私は画面に表示された名前を見てベットから飛び起きた。付き合って半年、今まで一度もフェイタンから仕事以外の連絡なんてなかったのに明らかに仕事とは関係ないメールが送られてきた。送られてきたメールには“暇”と一文字だけど、それでもフェイタンなりのデートの誘いだと思うのは私の脳内がピンク色だからかも知れない。フェイタンに誘われた。その事実だけで私が有頂天になったのは言うまでもない。すぐさま、返事を返すと電話が掛かってきた。メールを打つのが面倒くさくなったのだろう。“今、どこにいるの?”と送ったメールの返事にフェイタンは一言。


「アジト」

本当に一言だけ言って電話は切れた。私は仕事以外でフェイタンに会えるのが嬉しすぎて、素っ気ないメールに素っ気ない電話も気にはならなかった。兎に角、今はフェイタンの気分が変わる前に出掛ける準備をして音速、いや光速でアジトに行こう。

足取りが軽い。無意識にスキップなんてしちゃたりして、ついでに鼻歌も歌ってる。私のことを都合のいい女だと思ってるんじゃないかと考えたこともあったけど、なんかもう別にいいや。そうだと思われていても傍にいたいと思うくらいフェイタンが好きだ。例え、ヤりたいから呼ばれただけでもフェイタンなら許せる。


「…フェイ?」

アジトと言ったからてっきり自室の方にいるんだと思ってたのに、部屋にいる気配がない。携帯に連絡しても出ない。アジトに誰もいないのか。気配を探すと団長やシャルナークの気配を感じて団長達の所へ急いだ。

何か、変だ。

部屋の前に来て背筋がゾッとした。中には全員ではないが殆どのメンバーが揃ってるのに誰も一言も発しないで何かを囲むように部屋の中心で立ったまま動かない。空気が張りつめている。はじめに感じた違和感はこれだ。静か過ぎるんだ。お喋りなノブナガでさえ黙って何かを見つめている。

どうして、フェイがいないの。

声が出ない。だけど体は動いた。私に気づいたフィンクスが「お前か…」と呟いた。みんなが一斉に私を見たのに誰も目を合わせない。やめてよ、なんか変だよ。


「…フィンクス」

「こっちくんな」

みんなの中心で倒れているフェイタンの姿を見て眩暈がした。すぐに駆け寄って胸に耳を押し当てるけど、心臓の音はしない。冷たくなった手を握ると目尻が熱くなった。


「俺、もう限界…」

そう言って顔を背けたシャルナークの肩が震えていた。みんな、口元を手で抑えたり顔を背けたり、肩を震わせて涙を堪えているんだ。と思ったのに、シャルナークの口元をよく見ると口の端が上がっているのに気づいてフィンクスとノブナガを見ると涙を堪えている、と言うより、笑いを堪えている。の方が合ってるような。

嫌な予感がして部屋の中を見渡すと瓦礫の上に座って私を見下ろしているフェイタンと目が合った。


「何ね」

不細工な顔してるよ、って誰のせいだ。私がフェイタンに気づくとみんなは一斉に笑い出した。シャルナークの「限界」とは笑いを堪えるのが限界ってことか。目に涙を溜めながら爆笑しているシャルナーク、フィンクス、ノブナガの三人を睨み付ける。フェイタンの死体をもっと注意深く調べていればコルトピの念だと直ぐに気付いただろう。恋人の死体を前にして冷静に何て出来なかった。メールが来てから一時間も立ってない。と言うかフェイタンが簡単に死ぬわけないじゃない。

騙された私が馬鹿だって話。


「ふざけんな!」

殺してやる、とフェイタンに向かって叫んだ。騙された私が馬鹿だったけど、浮かれすぎてた分、憎い。浮かれた自分が憎い。


「はは、笑えない冗談ね」

ムキになって念を発動しようとした私の襟を掴んだフェイタンは私の言葉を無視して引きずる。部屋の外まで引きずられる私を見て笑っているフィンクスを後で殺そうと中指を立て誓った。

フェイタンのキスで全てを許してしまうから私は馬鹿なんだ。


流せなかった涙

(悪質なドッキリ)


end

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