駄文2
□子供の領分〜バレンタイン騒動
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それは大事件だった。
二月の特別な日。
心うかれた女子がそわそわ。
待ちわびる男子はドキドキ。
なにやらただならぬ雰囲気が、校内を包んでいた。
一年に一度のバレンタインデーは、ある意味大切な一大イベントであった。
そんな事は気にもとめない広海は、いつものごとく席についた。
クラスを見渡せば、なにやら箱に埋め尽くされた席が三つ。
当の本人達は、教室にたどり着けないでいた。
まったく、あいつらに付き合ってたら遅刻だぜ。
小さくため息を付きながら、頬づえをついた。
一緒に登校した小林は、見事に女子につかまり、早く来ていたはずの新田もきっと捕まっているのだろう。
椎名は…っと…
小林、新田には負けるが、プレゼントの山になってる机をみた。
あのプレゼントの半分は、男からってのが、うけるよな。
彼らの机に、そっと置いていく生徒を、見ていただけに、苦笑するしかない。
まあ、俺には関係ないしな。家に帰れば、チョコレートなんて腐るほどあるし。
広海の頭には、容姿端麗。頭脳明晰の兄の姿が浮かんでいた。
まあ、毎年の恒例行事だから、兄貴の場合は、必要最低限だけ持って帰って、あとはうまくさばいてくるんだろうけど。
そんなことを考えていると、ぐったりな様子の三人が教室に入ってきた。
見かねた教務が、紙袋をくれたのだろうか。両手に抱えている。
さらに、教室の机をみて、さらにがっくりと肩を落とした。
男としては嬉しい悲鳴なんだろうけど、うんざりな様子だ。
面白そうにニヤニヤしている広海を見つけると、ものすごい勢いでせまり、広海に向かって盛大にぼやいた。
「茅野ずるいよ!先に行っちゃうなんて」
「まったく、薄情だよな」
小林と新田が愚痴り倒す。
「おまえらに付き合ってたら、いつまでたっても教室に行けないだろうが」
小林と新田に、しごくまともな反論を返す。クラスの男子が、珍しく頷きあっている
「でも、茅野がいれば、もっと早く教室に入れたよ」
椎名の言葉に、目が点になる。
なんで?
「そうだっ!茅野っ、帰りは俺に付き合えよ」
椎名の言い方も引っかかるが、なんで自分が新田の下校を付き合うんだ。
さらに、疑問は深まり、口に出してきいてみれば、
「だって、茅野効果で人が寄ってこないんだから、俺はスムーズに帰れる!」
名案とばかりに言う新田の頭を、一発殴ってやった。
「ってー、なんだよ茅野!!」
「なんだよじゃねぇよ!ったく、俺をなんだと思ってるんだ」
「まあまあ、それだけ茅野が凄いってことだよ」
フォローになってるのかないのか、小林の言葉に不機嫌モード全開でむくれた。
椎名が三人の様子を面白そうに眺めていると、ふと広海のかばんに気がついた。
「茅野、それ…」
椎名が言わんことに気がついたのか、広海は、鞄から小さな包みを取り出した。
「これか?なんか来たら机に入ってたんだよ。おまえらいる?」
…えっ…誰から?
あの茅野に、バレンタインプレゼント?!
まじかよ。
誰かの間違いではないのか。
三人は思わず目を見合わせた。
箱には、かわいらしい字で茅野さんへと書かれている。
予想外の展開だ。
誰だ?
お前知ってる?
そんなことより、茅野が好きだって奴がいるんだ。
ウカウカシテタラ、トラレチャウ。
女子と断定しないところが、三人らしい。