Yuki's Love Story
□モノクローム
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「あっ、買い忘れちゃった...」
小さなスーパーから出た途端、買い物リストを確認していた千紫郎が思い出したように呟いた。
呆れて大きな溜め息を吐く黒刀と隣で苦笑する夕月。
「さっさと買いに行ってこい、僕は夕月とここで待ってるぞ」
「うん、ごめんね二人とも。じゃあちょっと待ってて」
もう一度、店内へと戻っていく千紫郎。夕月と黒刀は先に買い終えていた荷物を下げて、スーパーの出入り口付近に並んで立った。
「まったく、アイツはいつもどこか抜けてるんだ」
「ふふっ、でも僕もそういうとこありますよ」
「夕月はいいんだ...(可愛げがあるから)あっ!!」
「ど、どうしたんですか?」
「あのバカ、財布を忘れてる...」
「あ〜...」
先ほど千紫郎から預かった荷物の中に財布が紛れていて二度の過ちに黒刀は舌打つ。
「悪い夕月、これ届けてくるから。ここを動くなよ」
「はい、待ってます」
そうして一人、空を見上げた夕月の鼻先にポタリと雨水が落ちた。
降り出した雨がアスファルトに黒い染みを作っていくのを、スーパーの軒先で雨をしのぎつつ静かに見つめる。
今朝の天気予報では降水確率は低かったように思う。だから、多くの人が傘を持たずに出かけてしまった為、行き交う人たちは一様に浮かない顔をして足早に雨宿りできる場所を探していた。
かくゆう自分たちも傘を持ってきていないので単なる夕立ちか通り雨ならいいのに、と夕月は雨雲の行方を目で追おうとして、すぐに異変に気づく。
「あ、れ...?」
目を擦ってみても目の前の光景は変わらない。
何故か空から降ってくる雨が空中で固まったかのように動かないのだ。
それだけではなく、周りにいた人たちまでも石のように微動だにしていない。いつのまにか辺りには静けさだけが広がっていた。
(これは...、デュラスの仕業?)
冷静に判断できる余裕が残っていたのは今までの経験からか。
夕月は自分の身体に違和感がないのを確かめると、一先ず千紫郎と黒刀に合流しようと踵を返した瞬間、隣に佇んでいた人にぶつかってしまった。
「すみませっ!」
返事はないだろうに律儀に謝る夕月の耳に、ふいに届いたのは懐かしくも今は切なく響く声。
「元気そうだね、夕月」
微笑みかけてきた人は優しげにこちらを見つめている。
その穏やかな瞳に冷酷さは見当たらず、夕月が慕う”若宮奏多”そのものだった―――。
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2011.10.23@序章的に書きましたが続く予定...