Yuki's Love Story
□月に焦がれる
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*ルカ×夕月←斎悧
*本誌ネタバレ?
*祇王の秘湯ネタ
「ここの温泉、すごく気持ちよかったですよ」
にこにこと微笑みながら隣を歩く夕月は祇王の秘湯の感想を報告してくる。
温泉上がりの白い肌は薄らと桃色に染まり、半乾きの髪はしっとりとしていて、夕月を艶やかに彩っていた。
普段では見られない夕月の色香にあてられてルカの心がざわつく。
触れたい、抱きしめたい、と...。
そんな葛藤を余所に夕月は「そうだ!」と名案が思いついたとばかりにルカを仰ぎ見た。
「明日はルカも一緒に入ろう?ね?」
小首を傾げての誘いにルカは思わず息を呑んだ。
どくり、と心臓が音を立て無意識に夕月の腰に手を回した。
薄い浴衣ごしの華奢な体躯と、風呂上がりの瑞々しい匂いが思考を惑わす。
「?...ルカ?」
きょとんとした夕月の丸い瞳が不思議そうにルカを見あげていて、その無垢な眼差しに我に帰る。
もう少しで夕月を傷つけてしまうところだった、と。
そんな己を苦々しく思い、ルカは夕月の腰に添えていた手を離した。
「...髪、乾かさないと風邪ひくぞ」
「あ、うん」
一房、髪を掬いあげると、はにかんだ笑顔が返って来る。
それだけで心が温かく満たされ、夕月を愛する気持ちが膨らむ。
愛おしさに瞳を細めた瞬間、不意に強い気配を感じてルカは意識を集中させた。
ここは中庭に面した廊下で、これから夕月と部屋へ戻る途中だった。
気配は一瞬で消えたが不穏な空気をまとっていたのが気にかかる。
「ユキ、俺が戻るまで部屋を出るな」
「え..ルカ、どこか行っちゃうの?」
淋しそうに訊ねられ胸が痛む。だが、あの気配を放っておくわけにも行かなかった。
あれは己への明らかな挑発だ。
「...すぐに戻る」
夕月を部屋の前まで送り届け、扉を閉めようとすると、そっとシャツの裾を掴まれる。決して強い力ではなかったが、切なげに注がれる視線がルカを踏み止まらせた。
「ルカ...早く帰って来てね」
「心配するな」
不安な表情を和らげてやりたくて夕月の頬を撫でる。
そのまま小さな唇へと指を這わすと顎を掬い上げた。
そして......。
...雲間から覗いた月の光が、二人の重なるシルエットを映し出していた。
****
パタリと扉が閉まり、夕月は茫然とその場に立ち尽くしていた。
唇に残されたのはキスの余韻。
指で触れてみて、次第に顔が熱くなっていく。
(......、どうしよう...)
恥ずかしいのはもちろんだったけれど、嬉しいという想いのほうが大きくて。
夕月は初めて芽生えた感情に混乱する。
口づけられた瞬間から胸がトクンと疼きだし、なんともいえない幸福感に包まれていた。
「...ルカ」
部屋の窓を開ければ、夜風が熱を持った頬を優しく冷ましていくようで気持ちよかった。
瞳を閉じるとルカの淋しげな瞳が思い出される。
彼は優しいけれど、どこか一歩引いたところで自分をみているような気がしていた。
その距離が切なくて、もどかしくて...。
(僕は..ルカのこと...)
カタン、と物音がして夕月は背後を振り返った。きっとルカだろう。
思っていたよりも早い再会に、先ほどのこともあり胸が煩く鼓動を鳴らす。それでも夕月は彼を出迎えるために扉を開けた。
「おかえり、ルカ...っ?」
そこに立っていたのはしかし、ルカではなかった。
淡い月明かりに照らされて訪問者は薄く笑う。
「やぁ。ルカでなくて残念だったな」
「斎、悧さん...」
夕月はどうしてだか得体の知れない不安に襲われる。斎悧といると心がざわついて落ち着かなくなる。
(ルカ...)
無意識に求めた人は傍には居ない。
心細さに夕月はきゅっと浴衣の合わせ目を掴んだ。その手を斎悧の大きな手が覆う。
「へ〜、今日は一段と色っぽいな」
「あの...」
斎悧は微笑んでいるのに、目が笑っていなくて怖いと感じた。
嫌われている?と思った瞬間にぐいと強引な力で夕月ごと部屋へと押し入られ、力強い腕に抱きしめられる。
「さ、斎悧さん?」
「あの男のことも憶えてないんだってな...、それなら奪ったとしても何の問題もないわけだ」
くすりと耳元で笑った斎悧は夕月の白い首筋を舌で舐め上げた。
「んっ...」
ぞくりと背筋を駆け上がる未知の感覚に夕月は怯えた。
そうしている間にも首筋にチクリと走った僅かな痛みに震える。
「やっ、...何を?斎悧さん」
「俺のものだって証を残したんだ。あいつが見たらどんな反応をするか楽しみだな」
「...っ!!?」
するりと浴衣の合わせ目から手が滑り込んできて胸元を肌蹴られる。
浴衣は肩から滑り落ちて夕月の上半身が斎悧の前に曝された。
「..やっ、斎悧さん!やめてください!」
「男でも、ここまで美しいとは...」
ちゅっ、と胸元に落とされた口づけに夕月はビクッと身体を震わせた。
恥ずかしくて、怖くて。こんな思考が回らなくなってしまう行為に恐怖を覚え、夕月は涙を零す。
「すぐに良くなる」
「...っ」
心の中でルカを呼んでいた。このまま続けられる行為に耐えられそうになくて、夕月は部屋の扉に視線を泳がせた。
ルカが帰ってきてくれることを信じて...。
胸元に何度も落とされる口づけの刹那、胸の頂きを食まれ、むず痒い感覚に身を捩らせた時、夕月の見つめる先の扉が開き、待ち望んだ人が現れた。
「ユキッ!!!」
「っ...ルカ!」
「騎士(ナイト)様の登場か...。リアも役に立たないな」
「貴様...!ユキから離れろ!」
「はいはい。全く必死だな」
くっくっ、と笑うと斎悧は夕月の着崩れた浴衣を治し、殺意の篭った瞳で睨む男の横を素通りする。
「一つ言っておくが...記憶がない以上、夕月は誰のものでもないんだぜ」
いまにも臨戦体勢なルカに対し、斎悧は涼しげな表情で忠告を残すと去って行った。
****
「ユキ、すまなかった。一人にして」
「...平気です。それにルカの所為じゃないから」
そう言って無理に笑う夕月が痛々しかった。
「あ、灯り。点けますね」
「ユキ...」
「はい?」
蛍光灯の下、夕月の白い首筋や鎖骨に散りばめられた赤い痕がルカの目に映る。
夕月を守れなかったことを悔やんでも遅い。それに自分も彼に無言の口づけをしてしまっていた。
彼はどう思ったのだろう。
「...すまない」
「どうして、謝るの?」
「キスをしたこと...」
そう言うと夕月の顔がみるみる赤く染まっていく。
そして小さな声が返って来た。
「...うれしかった」
「....」
「だから、理由が知りたいです」
理由なんて...ただ一つ。
「お前を愛してる」
end.
2010.7.18@チャットで斎×夕に激しく萌えたので書いてみました〜^^でも結局ルカ×夕に...(笑)