Yuki's Love Story
□恋という名の...
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初詣客で賑わう神社。
黄昏館のみんなとお参りに来たのはいいけれど、人混みに呑まれて逸(はぐ)れてしまいそうになる。
おまけに人に酔ったのか、目眩までしてきて気分が悪い。
それでもせっかくの楽しい一日を自分の所為で台無しにしてしまうのは嫌だった。
『おみくじを一緒に引こうね』と嬉しそうに話していた十瑚ちゃんの顔が浮かぶ。
その表情を曇らせたくはなくて、前を行くみんなに遅れないように夕月は歩みを進めた。
「夕月」
ふいに耳元に落ちてきた優しい声と共に肩を抱き寄せられる。
隣を歩いていたルカが、あっという間に人の波から夕月を連れ出してくれたのだ。
「大丈夫か?」
「...うん、ごめんねルカ」
彼は夕月の様子に気づいていたのだろう。結局ルカには心配をかけてしまった。
神社の外れにある、周りを木々で囲まれた箱庭のような場所にあった切り株へと腰を落ち着ける。
澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んで空を仰いだ。
木々の間からぽっかりと覗いた青空が綺麗で夕月は柔らかな笑みを見せる。
冷たい空気さえも今の夕月には気持ち良くて、さっきよりは幾分、体調が良くなったように思えた。
「少ししたら、みんなのところへ戻らなきゃね」
「無理はするな」
「うん、ありがとう」
ルカの手に優しく髪を梳かれ、夕月は穏やかな気持ちで目を閉じた。
さきほどまでの喧騒が嘘のように静寂な時が流れる。
そういえば、冬休みに入ってからルカと二人きりになったのは今日が初めてだった。黄昏館は賑やかで楽しくて、毎日が幸せで。でも、ルカと二人で過ごす時間は特別好きだった。
何故かは分からないけれど、彼の傍は落ち着いて、ありのままの自分で居られたから...。
ふと髪に触れていたルカの手が離れて、夕月はハッと目を開く。
「ルカ?」
「なにか、飲み物を買って来る」
ぽん、と頭を一撫でして離れてゆくルカの後ろ姿に切なさを覚え、夕月はその広い背中に抱きついていた。
突然の抱擁に動きを止めたルカは不思議そうに背後に問いかける。
「どうした?」
「あ...あの、何もいらないから。...ここに居て?...」
かぁっと羞恥に熱くなる頬を夕月は自覚していた。まるで小さな子どもみたいな台詞を口走ってしまったけれど、それは本心からだった。離れて欲しくない、ずっと傍に居て欲しい。沸き上がる切なさは止めどなく胸を締め付けていく。体調が悪いからこんなにも心細く思うのだろうか。と、ルカの温もりに縋った。
「夕月の傍にいる。だから、安心しろ」
ルカの大きな手が夕月の手を優しく包みこみ、不安定に揺れる夕月の心は落ち着きを取り戻していく。
ただ、今だけは。
こうして温もりに触れていたい。
互いの心音に耳を傾けながら、夕月は生まれたばかりの感情に気づけないでいた。
end.
2011.1.10@お年賀sssでした。続きも書きたい。