Yuki's Love Story

□眠りの淵に咲く花
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しん、と静まり返る邸内。
時計の秒針の音がやけに大きく聞こえる。
誰もが寝静まった深夜、窓の桟に座り、煌々と光を放つ月を眺める男が一人。
彼は眠りを必要としないのか微動だにせず、ただ、銀色の瞳に月を映し続けていた。が、ふいに視線が外れ、彼は徐に長い脚を投げ出し、桟から降り立った。
何事もなければ、おそらく明け方まで月を眺めていたであろう。
けれど、そうもしていられない事態が起きた事を察知した彼は、夜の闇に紛れて自室を出た。

向かうのは愛しき者の眠る部屋。





向かった先の部屋の扉の前で、出会した人物は驚きもせずに口元に笑みを浮かべた。

「...来ると思っていたよ」

「ユキに何の用だ」

暗がりでも僅かに漏れた月明かりで銀色の眼光が鋭く光り、敵意を剥き出して睨みつける。
常人ならば恐れを為すが、彼はクスリと苦笑したのみだった。

「まるで防犯センサーだね」

「ふざけるな。答えになってないぞ、タカシロ」

声はどこまでも低く、彼の機嫌の悪さを物語る。
ここで彼をからかって遊ぶのも楽しそうだが、夕月の眠りを妨げかねないと、天白は考えを改めて声を潜める。

「久しぶりに会う弟の顔を見たくてね。おやすみの挨拶もついでに」

「いつまで兄気分なんだ。ユキを傷つけたくせに」

「...否定はしないよ。だが、夕月が大切だと想うことに偽りはないさ」

言い終わらない内に天白はドアノブを掴んで扉を開いてしまう。
短い舌打ちと共に天白の後を追った先で目にしたものに意識を全て奪われ、彼は息を呑んだ。


淡いオレンジ色のベッドサイドのランプに照らされる幼さを残した顔。目元に落ちる長い睫毛の影。
ふっくらとした小さな唇からは可愛らしい寝息が零れている。
ふかふかのベッドで眠る人は、童話に出てくる姫のような愛らしさで、見る者を魅了した。

「うんうん、寝顔も実に可憐だね」

頬に触れた天白の感触に夕月はふにゃりと微笑んで、自ら擦り寄っていく。そして、ムニャムニャと何か寝言を呟いた後「ルカ」と、はっきり名を呼んだ。

「どんな夢を見ているんだろうね、この子は。幸せそうな顔をして...」

天白は優しく頭を撫でると、夕月が呼んだ当人を振り返る。
ルカは顔を背けてはいたが、心なしか頬がうっすらと赤く見えるのは気のせいではないだろう。

「ほら、夕月からのご指名だよ」

これ以上の野暮は無用だとばかりに、天白はルカの肩を軽く叩いて部屋を出て行く。



――せめて、ひとときの安らぎを彼らに...。

扉が閉まる間際に見えたのはベッドで眠る人に覆い被さる人影だった。


end.
2011.2.25@私的ルカ夕月のイメージは夜と月...。

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