Yuki's Love Story

□雨のち七色
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止まない雨をただ眺めては貴方の帰りを待つ。
玄関のドアを背にして手にするのは傘とタオル。
きっと貴方は雨に濡れても気にしないだろうから。
濡れた犬が頭を振るって雫を払う姿が思い浮かんで、少し似ているかもと微笑んだ。


「ルカ」

ぽつり、と無意識に名前を口に出してしまったことに恥ずかしくなるが、幸い周りには誰もおらず、安堵の息を吐く。

いつの間にか彼が傍に居ることが当たり前になっていて、僅かな時間さえ離れていることを淋しく思う自分がいた。

早く顔が見たい、声が聴きたい、触れたい、と...。
こんなふうに胸が切なく揺らぐのも前世の事柄が起因しているからなのだろうか。
それならば尚更のこと、前世の自分とルカがどのような関係性にあったのか知りたいと思いが募る。
彼は無理に思い出す必要はないと言ってくれるけれど、忘れたままでいいはずはない。
過去と現在(いま)の自分を繋ぐための鍵となる忘却した記憶。
それを取り戻せば、ルカの憂いた表情を少しでも和らげることが出来るような気がした。


物思いに耽っていた夕月の耳に車のエンジン音が聴こえた。
気づけば先ほどよりも幾らか小雨になっていたようだ。
夕月は傘を差して玄関ポーチを離れる。一台の高級車が滑るように入ってきて、夕月のすぐ傍で停車した。
後ろの座席のドアが開き、早く逢いたいと待ち望んだ人が降りてくる。


「おかえり、ルカ」

「ただいま、ユキ」

傘を差し向けて、次いでタオルをルカの髪にあてがう。
案の定というか、彼の髪は少し濡れていた。
雨の中、濡れることも厭わず任務をこなしていたのだろう。
いくらルカが『悪魔』だと分かってはいても心配だった。
ルカは自分を顧みないところが見受けられたから。もう少し自分を大事にしてほしかった。
少なくとも夕月にとってルカは必要な存在なのだから。


だから今はとりあえず。


「早く家に入ろう」

ルカの腕をとって足早に玄関へと引き返す。


雲の切れ間から零れた光が、曇り空にうっすらと虹を架けていた。



end.
2011.06.20

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