Yuki's Love Story

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「奏、多さん...」

掠れた声が喉をついて出る。
もう二度と逢えないと思っていたのに、レイガではなく”若宮奏多”として彼はここにいた。
彼に違いないと直感的に感じたのは、幼い頃から共に育ってきたからこその所以か。
突然の邂逅に動揺し立ちすくむ夕月に、奏多は切なげに瞳を伏せ、静かに告げた。

「驚かせてごめん...。レイガに自我を全てを飲み込まれてしまう前にもう一度、逢っておきたかったんだ」

奏多の両手が夕月の頬をそっと包み込む。

「そして伝えたかった、僕はいつも夕月の幸せを願ってるよって」

優しく落ちる言葉に、よりいっそう彼が若宮奏多であると確信が持て、夕月は泣きそうになるのを必死で耐えた。


――奏多さんが傍に居ないのに、どうして幸せだと言えるだろう。

いまここで、泣いて縋っても彼は留まってはくれないだろう。
それが自分たちの運命だから。
その先にある未来が少しでも明るいものであるように戦うと決めたのだ。
ツヴァイルトの皆と、ルカと共に...。

頬に宛てがわれた手に夕月はそろりと自分の手を添えた。
この温かく大きな手にいつも守られてきた。そんな人と自分は敵対しなければいけない。
けれど、傷つけるだけではなくて救うことだって出来るはずだと信じているから。

「僕はもう逃げたりしません。そしてこの戦いに必ず勝って、奏多さんが帰ってくるのを待ってます。それが僕の幸せだから...」

強い意志を宿らせた瞳に見つめられ、奏多は淡く微笑んだ。
ああ、自分はこの瞳に惹かれてやまなかったのだ、と。
(本当に、攫いたくなるな...)
けれど、最初からそんなつもりはなかった。

だって彼には闇よりも...。

「あの、偉そうなこと言ってすみません。でも逢えて嬉しかったです」

「夕月の幸せの為にも、僕は若宮奏多として戻ってこなくちゃいけないね」

「はい!いつまでも待ってます」

そうして、ふわりと笑った夕月を胸に刻み付ける。
忘れないように、夕月の元へ再び帰れるように...。

「...そろそろ魔法の効き目が切れる頃だ」

「魔法??」

「うん、ツヴァイルトが厄介だと思ったから時間を少し止めさせてもらったんだ」

「あ。黒刀くんと千紫郎さん...」

「彼らも含めて害はないから安心して。それじゃあ行くね、夕月」

「...はい」

これが最後だと、夕月を腕の中に抱きしめて別れる。

次にこうして触れ合うことが出来るのは全てが終わったあとだろう。
そこに自分が存在しているかは分からないが...。

だが、帰りたいと強く望む場所ができたのは確かなことだった。

歩調を緩め振り返ると、雲の切れ間から溢れた光が夕月を優しく照らしていた。


end.

2011.11.8@なんか...生温くてスミマセン;そして夕月たん男前!(笑)

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