Yuki's Love Story
□うららかな春
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雲一つない快晴だった。
カーテンを開け太陽の眩しさに一瞬目を細める。
仕事で明け方近くに帰ってきた体は、少しの仮眠だけでは休息が足りなかったようで、
気怠さを残していてスッキリとした目覚めは得られなかった。
腕を上げて伸びをしてから、もう一度空へと視線を投げる。
どこまでも澄んだ空の青さは清廉な彼の人を思わせて心が凪いだ。
触れたくてたまらなかった人が今生では近くに居すぎて正直、距離感に戸惑ったりもした。
それでも、ふとした折に垣間見える、あどけなさや柔らかい微笑みに何度もドキリとさせられて。
ああ、やっぱり好きだと自覚する。
まるで子どものような恋愛だと自分でも呆れ返る。
もやもやした気分と起き抜けということもあってか、喉の渇きを覚えた斎悧は部屋を出てキッチンへと向かった。
黄昏館は常になく静かで人の気配を感じなかった。
さっき見た陽の高さから言えば昼近くのはずで、それに確か今日は日曜だ。
揃って出かけてでもいるのだろうか。
夕月を中心に楽しそうなツヴァイルトたちが容易に想像出来て軽く笑みが漏れてしまう。
前世では有り得なかったことに自分ばかりでなく、他のツヴァイルトたちも浮かれているのだろう。
果たして良いのか悪いのかは分からないが少なくとも結束力は高まる。
それは実際の戦闘においてプラスに働くから、やはり馴れ合いも時には必要なのか。
そんなことを考えながらキッチンへ入っていくと、そこにいたのは遠間ではなく、
先ほどまで頭を占めていた人物だった。
「......夕月」
「あ、斎悧さん。おはようございます!」
冷蔵庫からジュースのボトルを取り出しながら夕月がにこやかに話しかけてくる。
「他の奴らは?」
夕月の隣からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して口に持っていく。
「今、みんなでお花見してるんです」
「あー、どうりで...」
人気がなかったわけだ、と納得する。
夕月がいるなら全員参加は当然だろう。
ここ黄昏館の庭は無駄に広くて手入れもきちんとされているから花見には持ってこいだ。
桜の木もあったのか...。
「斎悧さんも良かったら一緒にどうですか?」
腕に1.5Lのペットボトルを二本抱えて見上げてくる夕月の丸い瞳を見つめる。
華奢な外見の割に意外と力あるんだな...とか、どうでもいいことを考えてそういえばと我に返る。
「ていうか、なんで夕月がパシリなんてやってる?」
こんなの他の野郎の仕事だろう、と悪態を吐きながら夕月の腕からボトルを奪う。
「あ!いいです、斎悧さん!僕、持ちます!」
「構わねぇから持たせろ」
「でも!」
尚も取り戻そうと必死になる夕月の腰を空いていた方の手でするりと攫う。
「なら、夕月ごと運ぶけど。イイな?」
「へっ!?」
ニヤリと意地悪く笑う斎悧に、みるみる真っ赤になっていく夕月は口をぱくぱくさせて逃れようと身を捩る。
元々、力は入れていなかったので難なく距離を取った夕月が恨めしそうにこちらを睨んでくる。
「...斎悧さん...、僕で遊ばないでください...」
赤く染まった顔で睨まれても可愛いだけだ。なんて感想を抱きながら宥めるように頭を撫でた。
「ほら、花見行くんだろ」
「......」
「なんだ?やっぱり抱き上げて欲しいのか?」
「〜〜っ、斎悧さんっ!」
「ホント、可愛すぎるな夕月は」
「うう...」
ククッと笑いを零しながら夕月を促して庭へと出向く。
天気のいい日曜日、隣には夕月がいて、これから花見をする。
想像以上の幸せに満たされて空を見上げると、そこにはやはり雲一つない青空が広がっていて。
たまにはこんなに長閑な一日もいいかも知れないと深く息を吸い込んだ。
end.
2012.0510@斎悧→夕月妄想が止まらないw