Yuki's Love Story
□夢未来〜ゆめさき〜
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声がする――
僕を呼ぶ、優しい声が――
真っ暗な闇の中でたった一人うずくまっていた僕は、その声に立ち上がり導かれるようにして歩き出す。
『ユキ...』
知っているようで知らない暖かい声は、寂しさに泣いていた心に染み入るよう。
――あなたは誰ですか?
「夕月!」
「......っ、奏、多さん?」
「大丈夫か?魘されていたみたいだから」
そうだった...今日、僕は奏多さんの家を訪れていて、帰りが遅くなった為に泊まっていくように言われたんだった。
好意に甘えて、それなのに夢で魘されて彼を起こしてしまうなんて。
心配そうに顔を覗き込む奏多さんに申し訳なくなる。
「ごめんなさい、少し怖い夢を見てしまって」
「夕月が謝ることはないさ、何か飲んだ方が落ち着くかな?」
「あ...」
すっ、とベッドを離れようとする奏多さんの後ろ姿に僕は何故か寂しい気持ちに襲われて、咄嗟に彼の上着の裾を掴んでいた。
「どうした?夕月?」
「あ、あのっ...此処に、居て下さい」
なんて自分勝手で子供じみた言動だろう。頭の片隅でそう思うと、すでに行動に移してしまったことを後悔した。
奏多さんは呆れてしまっただろう。
恥ずかしさに、かぁぁっと熱くなる顔を思わず背けた。
けれど、次の瞬間ふわりと抱きしめられて驚きに顔を上げる。
「奏多さん?」
「夕月、僕は此処に居るから安心して?」
「はい...」
とくん、とくん、と心臓の音が間近に聴こえて、僕は安らぎに目を閉じる。
大好きな奏多さんの暖かさは今も昔も変わらない。
穏やかになる感情のまま、ぽつりと切り出す。
「さっきの夢、僕は暗闇にひとりぼっちで...でも誰かの声が聞こえたんです。とてもあったかくて優しい声。...誰かは分からなかったんですが...」
「そう、その誰かが夕月にとって大切な人だといいね」
「はい...」
僕は眠りに落ちていく。
この未来(さき)に待ち受ける運命など知らずに――。
end.
2008.9.6@夕月がルカと出逢う前のお話。