Yuki's Love Story

□還らぬ日々よ
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――理解っていた...。


――この気持ちにつけるべき名を...。


出会った頃はただ、自分を慕ってくれることが嬉しくて、彼の本当の兄のように在りたいと思っていた。

嬉しいことも、悲しいことも、兄弟のように分かち合えたのなら幸せだと...。

そんな温かな愛情が、いつしか形を変えた。優しいだけの関係がひどく苦しくなり、夕月が欲しくて堪らなくなった。


――手に入れて、閉じ込めて、自分だけのモノに...。

「...くっ、」

切ないほどに狂おしい恋情が暴走しそうになるのを辛うじて押し止める。
自分の中に潜む暴力的な感情に戸惑いを覚え、浅ましい欲望が溢れ出す前に、きつくきつく蓋をする。
そうして気持ちを誤摩化して、偽りの良い人を演じる。
でなければ、全て壊れそうな予感がした。


――何もかも全てが...。




「...奏多さん?」

声をかけられてハッとする。
隣から心配そうに顔を覗き込んできたのは、今まさに思考の中心人物であった夕月で。シャーペンを持ったままの彼の手元には受験対策の参考書やノートが広げられている。高校受験を控えた夕月に勉強を教える為、今日も図書館に来ていたのだった。

「大丈夫ですか?顔色がよくないですよ」

「...いや、平気だ。少し考え事をしていただけだから」

「でも、心配です」

「...夕月、君は相変わらず優しいね」

大きな瞳で真摯に心配だと訴えてくる夕月の絹糸のような髪をさらりと撫でる。すると彼は気持ち良さそうにうっとり瞳を閉じた。
それは昔から彼の癖で、間近で見る度に鼓動が煩く音を立てた。


――綺麗で純粋な君が愛しくて堪らない。

大きく切り取られた図書館の窓から夕焼けの赤い光が差し込み、二人を優しく包み込む。
この気持ちを吐露するつもりはなかった。
それは単に夕月との関係が壊れるのをどこかで恐れていたからかもしれない。だからせめて、夕月と過ごす緩やかに刻まれていく時を大切にしたいと願った。

「...夕月、帰りに何か食べていこうか?奢ってあげるよ」

「え、いいんですか?」

ぱちりと瞳を開いた夕月が嬉しそうにはにかんで、奏多も微笑み返すとポンポンと頭を撫でた。

「勉強を頑張った御褒美にね」

「嬉しいです!奏多さん、ありがとうございます!」



こんな兄弟のような関係も悪くないと思い始めていた...。
傍に居て微笑み合える、穏やかで優しい距離。
胸に秘めたる気持ちを隠して、ただ君の傍に...。



――けれど、......壊れてしまった。


緩やかに回る歯車が狂いだしたのはいつだろう?

内に眠る何かが目覚めた日?

夕月が朝陽院を出て行った日?

今となっては、考えるのも煩わしい。


――明白なことは、ただひとつ。


「さよならだ、夕月...」



end.
2009.1.22@レイガの中に残る若宮奏多としての思い出。。。

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