Yuki's Love Story

□ハジマリノ音
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「嘘だろ...」

焔椎真はげんなりとエントランスから鈍色の空を見上げて呟いた。
パラパラと降り出した雨は徐々に激しくなっていく。
今朝はあんなに晴れていたのに...。


「やっぱり雨、降ってきましたね」

帰り支度をした夕月が隣に立って、同じように空を見上げた。
その手にはきちんと傘が握られていて。

そういえば今朝、橘が俺に向かって何かほざいていたが、さらりと無視して聞いていなかったことを思い出す。
もしかしなくとも、傘を持っていけと言っていたのか?
...まぁ今更どうでもいいが。

今日は夕月の護衛だから走って帰る訳にもいかず、濡れたままで帰るかと腹を決めた。
あとは愁生を待つのみだ。

「焔椎真くんは傘、持ってないですよね?」

「ん?ああ...忘れた」

「それなら僕の傘に入って下さい」

「は!?」

「ちょっと窮屈かもしれないですが...」

いやいや、問題はそこじゃなくて!
しかも男子高校生二人で相合い傘なぞ出来るか!
と、心中で羞恥に耐える焔椎真を余所に夕月はにこにこと微笑むばかり。

――なんだ、この可愛い生き物は...!

他意も無く、素でこんなことを言う夕月が純真すぎて堪らなく愛おしくなってくる...。
が、同時にいつも夕月の傍にいる男に同情もしてしまう。
誰にでも優しく素直に接する夕月を、あの男は毎回ヤキモキしながら見ているんだろうな、と...。
簡単に想像できてしまった情景に思わず苦笑を零した。

「ククッ...」

「焔椎真くん?」

きょとんと小首を傾げる夕月の髪をくしゃくしゃと掻き回す。

「わっ、なんですか?」
「...けど、簡単には譲ってやらねぇ」
「??」

いけ好かないルカ=クロスゼリアという男にとって特別な存在である夕月。
だが、俺にとっても夕月は特別だ。
だから、そう易々と譲ってやるもんかと未だ雨を降らす天空を見上げて、ここには居ない男に宣戦布告をする。

「...夕月。やっぱ..傘、入ってやってもいいぜ」

「あっ、はい!どうぞ!」

気恥ずかしくて背けていた視線を戻すと、夕月の嬉しそうな笑顔が待ち構えていて心臓が煩く音を立てた。
空は暗雲に覆われているけれど、夕月といれば雨の日さえも好きになれそうな気がした。



end.
2009.3.6@あれ?愁生出すつもりが終わってしまった...;愁夕〜orz

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