Yuki's Love Story

□La punition
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昼休みだというのに図書室は閑散としていて誰ひとりいなかった。

「図書委員もいないみたいだな。代わりに俺が返却手続きするよ」

愁生は夕月から本を受け取るとカウンターにまわって作業を始めた。
夕月はそれを見守りながら頭を下げる。

「あの、ご迷惑かけてしまってすみませんでした」

「迷惑なんかじゃないよ、俺は君を守るために居るんだから。......で?アイツは?」

「アイツ...?」

誰のことを言っているんだろう。と、夕月が首を傾げていると作業を終えた愁生が立ち上がり、にこやかな笑みを向けた。


「焔椎真は夕月を一人にして何をやっているんだ?」

笑みを浮かべてはいるが、言葉の端々に棘が含まれているのを感じ取って夕月は焦り出す。

(ここは焔椎真くんをフォローしなきゃ、焔椎真くんが危ない気がするっっ...!ものすごくっっ...!)

「えぇーっと、焔椎真くんはお昼食べ終わったら眠くなったらしくて。そういえば図書室の本、借りたままだなぁって思い出して。返しに行くだけなのに起こすのも悪いなって...。だからっ、僕が勝手に一人で出てきちゃっただけで、焔椎真くんは何も悪くないんですっ!!」


焔椎真を擁護する言葉を一気に捲し立てた夕月の、あまりにも必死な姿が可愛くて愁生はくすくすと苦笑した。

「焔椎真のことは分かった。それよりも夕月だ」

「...っ?!」

ぐいっと腰に手をまわされ体が密着する。
いきなりのことに驚く夕月の頭上から優しい声が降ってきた。

「いくら学園内でも一人歩きは危険だ。世の中にはバカな奴らが多いから。...と言うわけで、夕月にはお仕置き決定だな」

「えっ!!?」

焦る夕月に対して愁生はにっこりと極上の笑みを浮かべ、するりと夕月の頬を撫でると細い顎を上向かせた。

「夕月は無防備にもほどがある」

「あ、あのっ...」

戸惑いを隠せない夕月の額に愁生はそっと口づけた。
刹那、びくりと体を強張らせた夕月に、頭のどこかで怖がらせてしまったかなと思いつつ、止められないのも分かっていた。


腕の中、目の前に愛おしい人が居る。

その事実が愁生を高揚させていく。


お仕置きなんて陳腐な言葉で誤摩化したけれど、本当はただ夕月に触れたかっただけだった。
まるで恋人のように甘く、優しく。
たとえそれが仮初めでも。

額から唇を離すと、至近距離で頬を染めながら揺れる瞳がまっすぐこちらを見上げていた。
何か言いたげな視線に愁生は微笑して、瞼にも一つキスを落とす。

「あ...」

きゅっと怯えたように愁生の制服を掴んだ夕月が愛おしくてたまらなかった。


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