Yuki's Love Story
□La punition
3ページ/3ページ
「夕月、怖がらないで」
耳元で囁かれた愁生の声は優しさに溢れていて、夕月には怖いという気持ちはなかった。
ただ、突然のことに驚いてしまっただけで。
そして、どこか気恥ずかしいのも事実。
「怖、くは...ないです。...でも、どうして...こんなこと...」
恥ずかしさを追いやって、どうにか紡ぎ出した言葉は少し震えていたけれど、訊きたくて仕方のない事だった。
――羽のように柔らかく落とされたキスの理由を...。
抱きしめられる腕の力が強くなり、愁生は真摯な瞳を向けてくる。
「俺は誰よりも、夕月が愛おしい」
「...っ」
「ツヴァイルトだからとか、そんな感情だけじゃないんだ」
その瞳の奥にある熱を感じて、夕月はさらに顔が熱くなるのを自覚した。
こんな時、どうしたらいいのか分からなくて焦ってしまう。
それでも愁生の瞳から目を逸らせなかった。
「夕月...」
愁生の顔が至近距離に近づいてくるのを、混乱した頭のまま見つめる。
自分がどうするべきか、咄嗟の判断なんて出来なかった。
けれど刹那、夕月の脳裏に過ったものがあった。
黒髪に銀の瞳を持つ、秀麗なる人。
――ルカ......。
「夕月っ!!」
勢いよく図書室の扉を開けて飛び込んで来た焔椎真は、愁生と夕月が今にもキスをしそうな距離で顔を寄せ合っているのを見て息を呑んだ。
愁生は突然の介入者に溜め息を吐いて、夕月を腕の中から解放する。
「あー...邪魔が入った...」
「...なっ!何やってんだ愁生!」
「見ての通りだよ。まあ、誰かさんのおかげで未遂に終わったけど」
さらりとなんでもないことのように言ってのけた愁生に、焔椎真は唖然として二の句が告げなかった。
「夕月、驚かせてごめん。でも、俺の気持ちに嘘はないから。それだけは覚えておいて?」
「はっ、はい...」
ぽんぽんと頭を撫でられている夕月は、端から見ても可哀想なくらい真っ赤で。
それをぼんやりと眺めていた焔椎真は、思い出したように愁生に詰め寄った。
「おい!一体どういうことか説明してもらおうか?」
「焔椎真くん!あのっ、僕が悪いんです!」
「はぁ!??」
夕月に非があるとは少しも疑っていなかった焔椎真は盛大に声をあげる。
「なに言ってんだ、お前っ...愁生に...」
キスされそうになっていただろうが。とは言えず、
言葉を濁していると愁生の穏やかな声が遮った。
「焔椎真、夕月。その話は一先ず、ここを出てからにしよう。そろそろ昼休みが終わる」
+++
焔椎真は少し居眠っていた間にいなくなった夕月を必死で捜し求め、目撃証言などを得て図書室へと急行したのだった。
上級生に絡まれていたと聞いたときは焦りもしたが、向かった先でそれ以上の思わぬ展開が待っていようなどとは考えもしなかった。
愁生から事のあらましを聞いたが納得できない。
第一、自分の到着があと少し遅ければ夕月は...。
「愁〜生っ!!抜け駆けしやがって許さねーからな!」
「こういうのは早い者勝ちだろ」
涼しい顔をした愁生は二年の教室棟の手前で立ち止まる。
「それじゃあ、俺はここで...。いいか焔椎真、次からは夕月を一人にするなよ」
「分かってるって、夕月はいろいろ危なすぎるからな」
「夕月、また黄昏館で...」
「はい...」
愁生の背中を見送っている夕月の肩に焔椎真は手をかけて先を促す。
「ほら、俺たちも戻るぞ」
「はい。あ、あのっ...」
「ん?」
「僕、愁生くんにからかわれたんですよね??」
全く分かっていない夕月に焔椎真は脱力する。
どうしてこんなにも純真なんだ...。
そこが夕月の魅力でもあるけれど。
「あ〜〜愁生とのことは、あれだ......忘れろ」
「えっ、でも...」
「いいから、そんなに気に病むな。それと、ルカには絶対言うなよ!」
あの男が今日のことを知ったら確実に殺られる。
もちろん、そんなことになったのならば、愁生と共に闘う覚悟は出来ているが...。
「いつでも相手になってやるぜ!」
「?」
焔椎真は夕月の手を強引に掴むと、足早に教室を目指した。
end.
2009.6.18@この三人は書いていて楽しいです...笑。