Yuki's Love Story

□水 色 恋 模 様
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「前世の記憶がないのなら、戦う道理はないはずだ」

「ルカ?...」

静かな月夜にルカの声が凛と響く。
彼の言わんとすることを確かめたくて、夜の帳の中でも淡い光を放つ銀色の瞳を見つめ返した。


「ユキが望むのなら戦わずに生きる道もある...」

さらりと髪を撫でてくれる手は優しくて。
紡がれた言葉に胸が詰まった。
ルカは自分の身を案じてくれているのだろう。

「...ルカは優しいね。でもきっと、ここが僕の居るべき場所だと思うから」

「それでも、お前が望みさえすれば、いつだって連れ出してやる。だから遠慮は無用だ」

「...っ、...ありがとう」

強く確かな言葉に心が打たれた。
ルカの言動はいつも包み込むような優しさに満ちていて。心の奥底にある何かが惹き付けられるような感覚は、出会った時からずっと続いていた。

いまさら黄昏館を出ようとは微塵にも思わない。
僕はここで皆と共に戦う道を選んだのだから。


でも...。


「ルカ...少しだけ、我が侭言ってもいいかな?」

すっと背伸びをしてルカの耳に願いを吹き込むと、彼が小さく微笑ったように見えた。



* * *

「ちょっと、みんなー!夕月ちゃん見なかった?」

ダイニングに顔を出した十瑚は開口一番そう訊いていた。テーブルには遠間お手製の朝食が並べられていて、辺りには香ばしい香りが漂っている。

「おはよう、夕月がどうかした?」

スープの入ったカップを置いて愁生が訊ねる。
日曜の朝にしては珍しく、九十九以外を覗くツヴァイルトたちが揃っていた。

「夕月ちゃんがどこにも居ないのよ〜」

「マジかよっ!?」

愁生の隣に座っていた焔椎真は焼きたてのクロワッサンを手にしたまま立ち上がり、いまにも夕月を捜しに行こうと飛び出さんばかりだった。が、そのシャツを愁生が掴んで止める。

「落ち着け、焔椎真」

「けどっ、夕月が居なくなったんだぞっ!」

「とりあえず、クロワッサンは置いていけ」

「いや、そこ突っ込むとこじゃないだろ!」

俄に騒がしくなった朝食の席にのんびりとした声が届けられた。

「あ〜、君たち。夕月くんなら愛の逃避行中だよ〜」

声の主は今日も奇抜な衣装を身に纏い、ダイニングから続くリビングのソファで優雅に紅茶を啜っていた。

「なっ!どーゆう意味だ、それはっ!説明しろ、橘!」

「どーもこーも、そのまんまの意味だよ、ほっつー」

「きゃ〜素敵だわ!ルカったらやるじゃない!」

状況を把握した十瑚は一人、黄色い声をあげて喜んでいる。

「あれ〜?僕、ルカくんとだなんて言ったかなぁ?」

「だってルカしかいないじゃない!なんて素敵なのかしらっ!九十九にも知らせなきゃ!」



「おはよ十瑚ちゃん、どうしたの?」

ちょうどタイミング良く姿を見せた九十九が、瞳をキラキラと輝かせた姉に声をかけた。

「九十九!あのねっ、夕月ちゃんとルカがラブラブデート中なの!」

「らぶらぶデート...」

「いいわよね〜ラブラブな二人っ!」

うっとりする十瑚に焔椎真が横やりを入れてきた。

「おい!そんな呑気でいいのかよ!」

「なによ〜?」

「逃避行って、つまりはもう戻ってこないってことなんじゃ...」

「......」

しばしの沈黙のあと、ようやく事態に気づいた十瑚は悲鳴のような叫びを上げた。

「いやぁ〜〜〜〜!!!」

「おまっ!うるせー!」

「九十九、どうしよう...夕月ちゃん戻って来なかったら。私...」

「大丈夫だよ十瑚ちゃん、夕月は必ず戻ってくるよ」

九十九の確信めいた言葉に宥められた十瑚はほっと息を吐き、焔椎真もガシガシと頭を掻く。
夕月がいないだけで不安になったり、落ち着かなかったり。それだけ皆にとって夕月という存在は大きく、無くてはならないものになっていた。

「ルカったら勝手に夕月ちゃん連れ出しちゃうんだから...」

「おい、橘!どこに行くのか聞いてなかったのかよ」

「な〜んにも。ていうか詮索はしないほうが身の為だよ。ルカくんに殺されたくなければね」

「胡散くせ〜」

事のあらましを全て知っている橘は敢えて知らぬふりをする。なにせ、全ては夕月の願いなのだから...。


喧騒から離れ、愁生は朝陽が差し込む窓の外を眺めた。

「夕月、今頃なにしてるんだろう...」

やはり彼も例外ではなく夕月の所在が気になっていたようで、九十九はそんな愁生に笑みを向けながら「すごく幸せそうだよ」と答えた。




2009.8.2@シリアスと見せかけてギャグになりそうな予感;
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