Yuki's Love Story

□水 色 恋 模 様
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水族館のメインイベントであるイルカショーの開演を二人は待っていた。
ショーのチケットは予め買っていたので一番前の席に座ることができ、夕月はきらきらと瞳を輝かせながらプールを見つめていた。
いよいよ開演のアナウンスが流れ、大きなプールの中をイルカたちが悠々と泳ぎ回る。
トレーナーの合図ひとつでダイナミックな技を繰り出すイルカに夕月は感嘆の声を上げた。
そうして目の前で水面から飛び出したイルカのジャンプに見蕩れているとバシャーンと水飛沫が頭上めがけて降り注いで来た。多少なりとも濡れるのは覚悟していた夕月は目を閉じて俯くと衝撃に備えた...が、冷たさも何も感じず夕月は不思議そうに顔を上げる。

「??」

「ユキ、平気か?」

ルカの声が頭上から振ってきたかと思うと、目の前に水を滴らせたルカが立っていて会場内が黄色い歓声に包まれる。観客の女性たちが水も滴る...なルカに釘付けになっていたのだ。

「ル、ルカッ!」

もしかしなくとも、いや絶対そうなんだろうけれど、夕月が濡れるのをルカは防いでくれたのだろう。

「ったく、イルカってのはどうしようもない奴だな。そこで待ってろユキ、殺ってくる」

「...やってくる??って、......まさかっ!!(殺?!!)」

スタスタとプールに近づいていくルカを夕月は慌てて引き止める。

「ルカッ!待って!!」

必死で背中に縋り付くとルカは振り返り、夕月の頭にそっと手を置く。

「俺から離れないとユキも濡れる」

「そんなの構わないですっ!それより早くここを出ましょう!」

「...?まだショーは終わってないだろ?それにさっきのイルカを殺...」

「あのっ!僕はもう十分楽しみましたから!帰りましょう!」

周囲の観客の目から逃れるように二人は会場を後にした。




手持ちのハンカチと売店で買ったタオルで、ルカの濡れた髪や背中を拭いていく。

「早く乾くといいんですが」

「ユキ...その、俺はまた何かマズいことをしたのか?」

ルカの問いかけに夕月は小さく笑って、ふるふると首を振った。

「濡れなくて済んだのはルカのおかげだから、ありがとう。あ!でも、イルカは殺っちゃいけませんよ!」

「?...ああ、約束する」

ルカのいろんな一面を知っていく度に心に優しい熱が灯っていく。じんわりと温かいそれに夕月は幸せを噛み締めた。




* * *


「夕月が帰ってくる」

九十九の言葉にツヴァイルトたちは夕月を出迎えようと玄関の外で待ち構えていた。
やがて、天白所有の高級車が黄昏館の敷地内を滑るように入ってくると、真っ先に十瑚が車へと駆けていった。

「おかえりなさい、夕月ちゃん!」

「静かにしろ、ユキが起きる」

「え?」

助手席に目をやると、イルカの大きなぬいぐるみを抱きしめて眠る夕月がいた。

「やだっ、可愛い!」

「あらら〜まるで眠り姫だね〜」

「橘、車は任せた」

「はぁ!?ちょっと!」

ルカは流れるような所作で車を降り、助手席から夕月をぬいぐるみごと抱きかかえると黄昏館の中へと入っていく。

「お姫様抱っこ...。夕月、かわいいね」

「なんで、ぬいぐるみ抱いてんだ?...まぁ似合うからいいけどさ」

「どうやら夕月たちは水族館に行ってたらしいな」

「い〜な〜!私も夕月ちゃんと行きたかったわ」


ツヴァイルトたちはそれぞれの感想を漏らしながらルカと夕月の後を追う。
黄昏館の一日が緩やかに終わろうとしていた。



end.
2009.8.28@私的テーマはぬいぐるみと姫抱っこ...(え;
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