Yuki's Love Story
□雪降る夜に
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子どもたちが眠る支度を始め出した頃、一足早くパジャマに着替えた夕月は奏多を探していた。
ようやく考えついた願いごとを携えて。
「奏多さん?」
先ほどまで賑やかだったリビングルームに佇む人影に問いかけると、窓際から身を翻した彼が淡く微笑む。
「...夕月、願いごとは決まった?」
「はい」
「おいで、こっちに」
ぼんやりとしたオレンジ色の明かりだけが灯された室内は幻想的な雰囲気を醸し出し、まるでここが別世界のような不思議な感覚に囚われながらも夕月は一歩一歩、彼の元へと歩みを進めた。
そうして辿り着いた先で、奏多が遮光カーテンを開いて外を見るように促す。
「見てごらん」
そっと背を押され、温度差で曇る窓ガラスの外に視線を向けた夕月が目にしたものは...。
「...あっ!雪!」
「さっき降ってきたばかりなんだ。ホワイトクリスマスになったね」
「うわ〜すごくキレイ!」
闇の中に浮かぶ真っ白な雪は次から次へと降り積もっていく。
明日には一面の銀世界が見られるだろう。
「......でも、心配」ぽつりと呟かれた独り言のようなセリフをしかし、奏多は聞き逃さずに拾い上げる。
「何が心配?」
「えと、あんまり降りすぎちゃうと、サンタさんが来られなくなっちゃうから...」
夕月の無垢な発言を笑うでもなく、奏多は優しく受け止めた。
「そうだね...でも、サンタさんには優秀なトナカイがいるから大丈夫だよ、きっと」
「そっか、それなら安心ですね...」
心底ホッとした顔の夕月を眺めやりながら唐突に腕を引き、ポスンッと音を立てて懐に収まる小さな体を掻き抱く。
「っ!......奏多さん?」
「...聴かせて?夕月の願いを」
耳元で囁くとピクリと身じろぎした夕月は、そろりと顔を上げて口を開いた。
「......僕、一度でいいからサンタさんに会ってみたいんです。...だから、サンタさんが来るまで、一緒に起きていてくれませんか?」
「それが、夕月の願い?」
「...ダメ、ですか?」
不安げな瞳が揺れ、きゅっと小さな口が引き結ばれる。
―――駄目なわけなんてなかった。
―――可愛らしい、小さな小さな願い...。
「叶えてあげるよ。一緒にサンタさんに会おう」
途端に綻んだ夕月の笑顔は、クリスマスのイルミネーションなんかよりも目映く綺麗だった。
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