Yuki's Love Story
□Melty*
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...冬は苦手だった。
「寒いから」とか、そんな単純な理由じゃなくて...。
薄いレースのカーテンを開いて窓の外を見上げれば、どんよりとした鈍色の空から深々と雪が降り続いていた。
このまま降り積もればきっと、明日の朝には世界を真っ白に塗りつぶしてしまうだろう。
―――跡形もなく、真っ白に。
「...っ、......」
込み上げた恐怖に胸元を押さえる。
何もない真っ白な世界に独り、置き去りにされた自分の姿を白昼夢のように垣間みた気がして、
......怖かった。
「弱い、な...」
内面も、外面も。
思わずカーテンをきつく握りしめて自分の弱さを呪う。
マイナスへと落ちていく思考の中、それを掬い上げる賑やかな声が耳を掠めて、夕月は窓下へと視線を移した。
***
「だーかーらー!そんなんじゃねぇって!」
「じゃあ、嫌いなんだ?」
「違っ!...別に、なんとも思ってねぇよ......」
学園を出てから交わされる焔椎真とのやりとりに、愁生は軽い溜め息を吐き出す。
――いい加減、認めればいいものを...。
戒めの手であれば誰もが抱く、夕月を愛おしいと想う気持ち。それを焔椎真は強く否定する。
...まあ、照れ隠しなのだろうけど。
「あ〜!もう、この話は終わりだ終わり!」
黄昏館の敷地内に入り焔椎真は唐突に話を切った。夕月本人には勿論、他の誰にも聞かれたくないのだろう。
「まったく、素直じゃないな...」
「何か言ったか?」
「いや......。あ、夕月」
「なにっ!?」
視線を感じて見上げれば、玄関先を望める二階の窓際に佇む夕月と目が合う。
彼は一人のようで窓越しに「おかえりなさい」と、手を振って微笑みをくれる。
いつもの夕月と変わりないはず、それなのに僅かな違和感を覚えた。
「夕月...泣いてないか?」
焔椎真が漏らした言葉に愁生は確信を得る。それは、経験した者だからこそ理解できたこと。
微笑みの下に隠れた哀しみを...。
「行こう」
「ああ!待ってろ、夕月!」
――俺たちは知っている。
独り泣く、淋しさと心の痛みを...。
そして、そんなときこそ人の温もりが恋しいことも。
―――君は決して独りじゃない。