Yuki's Love Story

□Melty*
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階下からまっすぐに近づいてくる足音がさきほど帰ってきた二人のものだと夕月には分かっていた。
ただ、慌てて駆けてくる理由が分からない。程なくして飛び込んできたのは、やはり愁生と焔椎真だった。

「夕月っ!」

「は、はいっ!...!?」

条件反射で返事をした夕月は、いつのまにか焔椎真の腕の中に納まっていた。力強い腕が後頭部と背中にまわされて、夕月は彼の胸元で大人しくしているほかなかった。

「...焔椎真くん?」

彼の行動が分からず、小さく名前を呼んでみる。すると更に腕に力を込められて、ぶっきらぼうだけど優しい声が降ってきた。

「...バカが、独りで泣くんじゃねぇよ...」

どうして心の内が知れてしまったのだろうとか、そんなことを考える間もなく夕月の涙腺が一気に緩む。

心配されるということがどれほど嬉しいことか...。
いまにも零れそうな涙をこらえて、夕月は強がりな言葉を紡ぐ。

「...泣いて、ない、ですよ?」

本当は泣き出したい気分だった。今日の空模様みたいに。

けれど、弱い自分を見せたくはなかったし、余計な心配もかけたくはなかった。これ以上、彼らの負担にはなりたくなかったから。だから隠し通すつもりだった。
それなのに、簡単に暴かれた弱い心が温もりを求めて震え出す。

「夕月、君は独りじゃないんだ」

静かな落ち着いた愁生の声が届き、夕月の心を溶かしていく。

「だから、淋しいときは俺たちを頼ってほしい」

独りで淋しさを抱え込まなくていいんだと、泣いてもいいんだと赦されているようで。
夕月の目尻から涙が一雫、零れ落ちた。
部屋のなかは少し肌寒かったはずなのに、幸せな気持ちで満たされた心は温かだった。
だから、焔椎真の背中に腕を回してしまったのは殆ど無意識だった。

「少しだけ、こうしててください」

胸元に顔を埋めて温もりを味わう。
彼が一瞬、硬直したように感じたが夕月は知らないふりをして甘えた。
心の中で謝罪を述べながら。
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