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賑やかな朝市の喧騒が王都の一日の始まりを明るく告げる。
人々は活気に満ちていて往来には様々な品物が並べられていた。
売り買いをする人の波を縫って、この街では見慣れぬ旅装束の二人が溢れんばかりの果物で埋め尽くされた屋台に顔を出す。
外套のフードを目深に被っているため顔がよく見えず、店主は胡散臭そうに声をかけた。

「見たところ、旅人のようだが何処から来なさった?」

するとフードの下からクスクスと笑い声が零れる。


「やだなぁ、オジさん。もうボケちゃった?」
「ん?その声は...」
「おはよう」

フードを取り去り、にっこりと挨拶をしたのは店主もよく知る少年だった。

「なんだ、叢雨の小僧か。しばらく見かけないと思ったら旅に行ってたのか?」
「うん、王の客人を迎えにね」

チラリ、と背後に視線を向けた九十九に誘われるように店主も改めて未だフードを被ったままの人物を物珍しげに見つめた。
王の客人ということはそれなりに地位の高い者なのだろう。
だが、身にまとっている衣服は簡素で、フードの下から窺えるのは鼻筋の通った端正な顔立ちの青年だということだけだった。

「それより、オジさん。林檎をもらえるかな?」
「ああ、毎度あり。そういえば、夕月様はお元気かね?」

王宮の騎士として働いている九十九は皇子である夕月に度々、果物を土産として持っていくほど仲が良いらしく、
店主はあまり国民の前に姿を現さない皇子の様子を尋ねてみた。

「この頃は床に伏せることもなくて調子がいいみたいだよ。俺も久しぶりに逢うから楽しみ」
「なら、いいんだが。この国の未来は夕月様にかかっているからな」

林檎が入った紙袋を手渡しながら店主が呟く。

「...そうだね。夕月様も夕月様なりに頑張ってるよ。それじゃあ林檎、ありがとう」

刹那、九十九の表情が曇ったように見えたが、相変わらず人のいい笑顔を浮かべて背を向けたので、店主は見間違いかと品出し作業に戻った。



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20100919

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