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王宮に帰還した九十九を出迎えたのは普段は北方の護りに着いているはずの二人だった。
余程のことがない限り戻ってこない二人が何故いるのだろうと九十九は瞳をぱちくりさせる。
まさか夕月様に何かあったのだろうか?と不安が過るが、それならば城内はもっと緊迫しているはずだと
思い止まる。

「二人が此処にいるなんて珍しいね。いつ帰ってきたの?」
「三日前だ。焔椎真が夕月様の御身が心配だって騒ぐから、王に許しを頂いたんだ」

やはり夕月様のことが心配なのだなと思わず漏れた笑いに焔椎真がチッと舌打ちした。
その顔は仄かに赤く、相変わらずの彼らしさに微笑んだ。

「愁生〜、余計なことは言うな」
「事実だろ。まぁ俺もこの目で確かめたいことがあったからな。...九十九、そちらが夕月様の?」
「ああ、うん。彼が...」

九十九の背後に立っていた男がフードを取り払い進み出ると、にこやかに握手を求めてきた。

「初めまして、若宮奏多です。よろしく」
「初めまして、俺は碓氷愁生。で、こっちが」
「蓮城焔椎真だ」
「よろしく」

差し向けられた手を焔椎真は一瞥しただけで吐き捨てるように言葉を放つ。

「夕月を傷つけたら許さねぇ」
「おい、焔椎真!」

そのまま奏多の横を通り抜けて城外へ歩いていく。
愁生は予測していなかった事態に苛立ちながらも王の客人へと頭を下げた。

「仲間の無礼をお許しください」
「いや、構わないさ」

もう一度、頭を下げて愁生は焔椎真の後を追いかけていった。
それを見届けながら奏多がぽつりと呟く。

「君たち”騎士の称号”を持つ者は、皇子に絶対的な忠誠を誓っているんだね」
「仲間が失礼しました。お詫びは必ず致しますので」
「いいって、気にしてないよ。そんなことよりも僕は皇子に早く目通りがしたいな」
「はい、すぐに案内致します」


彼ら――騎士を惹き付けてやまない皇子。

表には滅多に出てこないという謎に包まれた人物に奏多は純粋に興味を抱いていた。





* * * * *

「気にくわねぇ」
「焔椎真、どうしてそう感情的になるんだ。王の客人に無礼すぎるぞ。それに彼は出自もはっきりしているし、魔力も申し分ない。なにより王が自ら探し出した逸材だ」
「だからと言って安心とは言い切れねぇだろ!どんな闇が燻っているか分からないんだ!俺はもう夕月が傷つくのを見たくないんだっ!!」

慟哭のような叫びに呑まれそうになるが、愁生はそれを振り払い焔椎真の胸ぐらを掴んだ。

「落ち着け!何の為に俺たちがいる?次こそ夕月様をお護りするためだろ?」
「次だと!?あの時、救えなきゃ意味ねぇんだよっ!愁生、お前も見ただろ?怯えて泣いてた夕月をっ!!」
「......っ、」
「くそっ!」


今更、過去には戻れないし変えることも不可能だ。
だから、あの時の悪夢を消し去ることはできない。
分かっているが、どうしようもない衝動に駆られる。


――護りたかった。

――その笑顔を。その心を。


あの時の忌まわしい事件は今も尚、彼ら騎士たちの心を抉り続けているのだった。


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20120527

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