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*モブキャラ注意


* * * * *



悪夢は夕月が13才になったばかりの頃に起こった。

結界を維持する為の力が発現せず自分を責めて苦しむ夕月を気遣い、天白は国中から情報を集め夕月の力を引き出すための糸口を探していた。

本来、力は王家やそれに連なる者が持って生まれるのだが、稀に一般の民にも力の差はあれど持つ者がいて、彼らは王家に仕えるか賢者や施療師として民衆を救ってきた。
その中に独自の研究で『力を有する者』という論文を発表した博識な男がいるという噂を聞きつけ、王は彼に白羽の矢を立てた。
王の勅命に彼は己の知識が役立つのならと即座に了承したのだった。



夕月の師として彼を迎え月日は緩やかに過ぎていく。
およそ親子ほどの年齢差は傍目に微笑ましく映り、父親のいない夕月も穏やかで誠実な彼に次第に懐いていった。

「やぁ、夕月。頑張ってるね。そろそろ休憩にしたらどうだい?」

「天白兄さん!」

読んでいた書籍から顔を上げて夕月は嬉しそうに笑う。
そこに近づいていき頭を撫でてやっていると、夕月を指導していた男は王に礼を取ろうとするが天白自身が止めた。

「少し、夕月を休憩させてやってもいいかい?」

「はい、もちろんです」

「冬解、ティータイムの準備を」

「かしこまりました。夕月様、どうぞこちらへ」

冬解に連れられて夕月が部屋を出ていくのを見送ったあと天白は男に向き直った。
この部屋を訪れた本来の目的を果たす為に。

「単刀直入に言わせてもらうが、夕月の力について何か分かったことは?」

「はい、夕月様の力はすでに目覚めています。これは王もご存知かと...」

「流石だね。そう、夕月は力を使える状態だ。その身に余る強大な力をね」

「ええ、しかしながら何かが欠けているんです。力を発現させる為のスイッチとでもいいましょうか」

天白は暫し考え込むように腕を組んで顎に手を当てた。
力を持つ者たちは物心ついた頃に己の力を自覚し、意識せずとも使えている。夕月のようなケースは珍しいというか初めてのことだった。

「そのスイッチさえ分かれば解決するかも知れないということか」

「はい、引き続き努力させていただきます」

「ああ、君に任せる」




その後も男は夕月に力の成り立ちなどを指導し、力を発現させる切っ掛けを探していたが、ある日信じられない光景を目にして絶句したのだった。


彼は夕月の師として城内の一室を与えられそこで寝起きしていた。
その日、早朝と言ってもまだ夜中に近い時間に目覚めてしまった彼は、何気なく窓の外を見て夜明け前の闇の中に人がいることに気づいた。
星の明るい夜だから気づけたのかも知れない。
侵入者か警備の者かと目を凝らせば有り得ないことに夕月が供も付けずに歩いていた。

(こんな時間に何処へ?)

純粋な疑問は疑心に変わっていく。男はひっそりと尾行していくことにした。
外は思ったよりも肌寒く、ぶるりと身を震わせながら夕月が歩いていった方向へ進んでいく。
そこは城の最奥にある魔界との境界。
いくら結界が張り巡らせてあろうとも、この国で最も危険な場所だった。
そんな危険な場所で夕月を待ち構えていたのが魔族だと知り、内心ギクリとした。

(何故、皇子が人間と敵対する魔族と一緒に?)

二人は親密な空気を漂わせ、寄り添うように腰掛けている。
片時も目が離せず息を呑んで成り行きを見守ろうとするがそれは敵わなかった。


「もしもーし?」

「な!…っ、(誰だっ)」

「はいはい、ちょっと静かにして下さいね」

口を抑えられたまま有無を言わさず場所を移動させられる。
簡単に振りほどけない驚異的な力は騎士の者だろうか。
ようやく城内まで引き返し解放された。

「手荒な真似をしてすみませんでした」

「君は一体、それに夕月様は何を…」

「俺は降織千紫郎、夕月様の騎士です。色々疑問だらけでしょうけど、ここで見たことは内密に」

「このことを王は存じ上げているのか?」

「ええ、ですから疑問は王に言っていただけると助かります。では失礼」

再び夕月の元へ向かう千紫郎の背中を一瞥して胸がざわつくのを感じながら部屋へと踵を返す。

陽が高く上り、王へと目通りを果たし
た男は、今朝見たことを話したが決して外部に漏らさないことを強く約束させられただけだった。

皇子と魔族が内通してるのではないか、はたまた皇子が魔族を懐柔しているのかと尋ねるが、どちらも否定される。どちらでもないとしたら二人が一緒にいる理由は?
その問いにも夕月を信じているから、好きにさせているという答えが返ってきただけだった。
何故信じられると言うのだろう。力を持たない子供の言動を...。

男は疑心暗鬼に陥り、この国はすでに魔族に蝕まれ危うい状態にあるのではないかと狼狽えた。
その原因を作った夕月を疎ましく感じ、これまで共に過ごしてきた中での愛らしい表情が黒く塗りつぶされていく。


『壊してやればいい』


突如として頭に響いた声に疑問も持たず、男の口角が淫猥に歪められた。
力のない皇子が魔族を色で持って誘惑したんだろうと根拠もないことを考える。
刹那、ギラリとした怪しい光を帯びた瞳が急速に淀み、焦点を失っていく。


「壊してやろう…」

暗い呟きは誰に聞かれることもなく闇に溶けていき、悪夢の舞台の幕が上がったのだった。


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20120615

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