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*モブ→夕月表現あり



その日、予定されていた授業が突如変更され夕月は王宮の離れにある書庫にいた。
そこは普段あまり使われることのない場所で何万冊という数の魔導書が眠っている。
夕月も師の教えにより少しずつではあるが魔導書を詠み解けるようになっていたので、それらを教材に使えることが楽しみで仕方なかった。
夕月は手近にある一冊の書を取ろうとして、その手を強い力で掴まれた。

「せ、先生?」

痛みが走って夕月が顔を歪ませても力は緩まず、そのまま書架へと押さえつけられた。
古書に積もっていた埃が舞い上がり、目の前の師である男の目は血走っていて、常にない異様な雰囲気に夕月は息を呑む。
そして抵抗しようとして四肢が動かないことに初めて気づいた。
掴まれた腕だけではなく、足も拘束されたように動かせないのだ。
これはきっと魔力によるものだと理解して、突然の暴挙に愕然とする夕月を余所に、男は首筋に顔を埋めて獣のように匂いを嗅ぎながら身体をまさぐり始めた。

「ひっ…や、やだっ」
「すぐ終わるから大人しくしてろっ」

恐怖に戦慄き震え出す夕月の衣服を引き裂き、破いた布切れを口に詰められて声を奪われる。

「んん......」
「なるほど、男のくせにエロい身体をしてる。この身体で魔族を誑かしたわけか」

男は衣服がかろうじて残っているだけの夕月の白い裸体を見ながらベロリと舌舐めずりをする。
その顔には優しかった師の面影はすでになく、夕月は信じられない思いで見つめ静かに涙を流す。

彼の言う魔族とはルカのことだろう。
けれど身体を使って誑かしたという意味が理解出来ない。
事実、夕月はルカとキスはするが、それ以上の経験がなく性に関しては全くの無知だった。
だから理由もなく衣服を破かれて素肌に触れられるのが怖かった。
それにどんな意図があるのかも分からないのだから。

「んっ...?!」

剥き出しにされた胸の小さな突起に這わされた指の感触に身体が震える。

「ほら、善がってみせろよ淫乱皇子さま。初心そうに見せて散々ヤらせてたんだろう?魔族の野郎に」
「んーーっ!」

いきなり胸の突起を摘まれた痛みに夕月は身体を硬直させた。
卑しく笑う男の顔を視界に入れるのが嫌で夕月はぎゅっと目を瞑り悪夢が去るのを待った。

耳許に落ちる荒い息遣いも、身体を這い回る無骨な手も何もかもが恐怖を煽る。
痛くて、怖くて、気持ち悪くて、吐き気が込み上げる。
もし自分に魔力があったのなら、この状況を打破出来たのかも知れない。
それが出来ないことが悔しくて涙は止めどなく流れ続けた。

この忌まわしい時間が早く過ぎればいいのに。
そしてルカに抱きしめてもらおう。
また甘えてしまうけれど彼はそんな夕月をいつも怒りも呆れもせずに、あの柔らかな笑みで受け止めてくれるから。


ルカの微笑みを瞼の裏に思い浮かべたのと同時にガラスが割れる激しい音が耳をつんざいた。
恐る恐る目を開けた夕月の口から布が取り出され呼吸が楽になる。
次いで剥き出しの身体にふわりと掛けられた黒衣と抱き上げられた浮遊感。
何が起こったのか混乱する夕月の耳元に凛とした声が届く。


「遅くなってすまない、夕月」
「……っ、ルカァ」

首もとに抱きついて泣き叫ぶ夕月の頬を次々と涙が滑り落ちていく。

「怖い思いをしたな」

優しくあやすように目尻や涙の後にキスをされ、ルカの体温に乱れた心が落ち着いていく。

「夕月、もう大丈夫だ」
「ルカ……ん...」

涙で腫れた瞼と赤い鼻先に口づけられ最後に唇を奪われた。
何もかもが甘い口づけに溶かされていく。
ルカの舌が口内に差し入れられ深い口づけに夕月の口端からとろりと唾液が零れる。

「ふっ...ん、」

ルカとのキスはどうしてこんなにも気持ちいいんだろう。
ふわふわとした頭で考えていると零れた唾液をルカが舐めとってくれる。
そのまま夕月は熱くなった身体をルカに預けた。

しどけなくもたれかかる夕月の熱に煽られるがルカは一先ずこの部屋から離れるべきだと思考を切り替える。
先ほどガラスを割ったと同時に吹き飛ばし気絶させたとはいえ、夕月を襲った男と同じ空間にいるのだ。
これ以上、夕月に嫌な思いをさせたくはなかった。

「夕月、ここを離れよう」
「うん...」

ぎゅうっと胸元にしがみついてくる夕月を強く抱きしめ返し、ルカはガラスの割れた窓から飛び降りた。


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20120706

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