マドリガル under
――抗えない熱に身を焦がす
夕月の心臓が煩いほどに鼓動を刻んでいた。灯りは窓辺から差し込む月明かりだけで、ベッドの上の二人を柔らかな光が照らし出す。
「...ルカ」
「ユキ...、怖いか?」
縋るような小さな声にルカが訊ねれば、夕月はふるふると頭(かぶり)を振って否定する。けれども体は小刻みに震えていて、不安がありありと見てとれた。
それらを少しでも取り除いてやろうと、ルカは慈しみを込めて夕月の唇にキスを与えた。
「優しくする...」
暗がりの中、夕月の潤んだ瞳がきらりと光った。
「ルカ...あの、僕......」
「どうした?...やはり怖いのか?」
「違うんです......その...僕は、男だから...」
そこで一旦、言葉を区切り、それでもルカから視線は外さずに夕月は告げる。
「だから...、ルカのほうが嫌じゃ、ないかって...」
こんな状況にも関わらず、自分のことよりも相手のことを思いやる言葉に、ルカの口元に薄らと笑みが刻まれた。
「俺はユキだからこそ、抱きたいと思ったんだ。性別なんて関係ない」
「...うん」
***
月の光が夕月の肌を白く浮かび上がらせていた。肌けたシャツから覗く首筋、鎖骨をルカは唇で優しく辿り、紅い花を咲かせていく。
「...ふ、...あっ」
夕月は艶めかしい声を上げながらシーツを掴んで悦楽に身を捩らせていた。
しっとりとした肌と快感に従順な肢体に酔いしれて、ルカは更に愛撫を深めていく。
「あっ...ぁ......はっ...」
熱に浮かされたような夕月の顔を見守りながらルカはそっと下肢に手を伸ばした。
「!?...やっ、ルカっ...!」
切羽詰まったような悲鳴を無視して下着ごと衣服をずるりと引き下ろせば、夕月の中心は緩く立ち上がり、先走りの蜜で濡れそぼっていた。
それを掌で包み込んだルカはやわやわと刺激を与え続ける、夕月は涙を零しながら堪えきれないとばかりにシーツの上を淫らに泳いだ。
目を瞑り、快感を逃そうとする夕月をルカの巧みな手の動きが限界へと導いていく。
「ルっ、ルカ!...ダメっ、...離しっ!んっ!...ああぁっ!」
願いはしかし聞き入れられず、びくびくと体を波打たせながら夕月は呆気なくルカの手の中に熱を吐き出した。
解放の余韻に弛緩した体は無防備にルカの前に曝され、薄い胸がせわしなく上下する。
「ユキ」
「んっ......」
掠めるだけの口づけを送ったあと、ルカは夕月の両脚を掲げて左右に押し開き、その間に身を屈めた。
「ル、カ?!...っ!」
「俺に全てを委ねろ、ユキ」
いつにない熱っぽい声のあと、ルカは夕月の隠された蕾に舌を差し入れて丹念に舐め出した。
「ひぁっ!?...やっ...」
力の抜けきった手がルカの髪を絡めとり引き離そうと動くが、快楽に染まりきった体では何の意味も為さなかった。
やがて、つぷりと綻びた蕾にルカの長い指が挿入され、慣れない異物感に夕月は苦しそうに喘いだ。
「ル、カっ......」
「ユキ、力を抜け」
涙ぐむ夕月を落ち着かせようとルカは震える内股にキスを落としていく。
そうすれば快感を拾い上げた夕月の中心がひくりと頭をもたげ始めた。
それを見計らってルカは蕾に差し入れた長い指の数を増やす。
傷つけないように細心の注意を払って。
夕月の吐き出した熱とルカの唾液が混ざり合い、卑猥な水音が辺りに響く。
喘ぐ夕月の声からは既に苦しさは消えていた。
ただひたすらに感じきった声で鳴く夕月の色香にあてられて、ルカは指を引き抜くと熱く滾った己の熱を綻んだ蕾に沈めていった。
「ふぁっ!あ、...んんっ...!」
熟れた蕾はルカを抵抗もなく奥へと誘っていく。
熱くやわらかい内部にルカは荒い息を吐いて、ゆっくりと抽挿を開始した。
「んっ、あ...あっ」
シャツ一枚の扇情的な姿で鳴き続ける夕月にルカは目を見張る。
この世のどんな宝石さえも夕月を前にすれば霞んでしまうだろう。
それほどまでに無垢な彼を穢しているのが己だという事実に、ルカは罪悪感と優越感を同時に抱いた。
けれど、それらを凌ぐ想いがルカにはあった。夕月を愛おしく想う気持ちがルカを突き動かす。
「...平気か?」
「ふっ、ぁ...うん」
汗に濡れた前髪を掻きあげてやれば、夕月はうっとりとした微笑みを見せた。
シーツを掴む夕月の手を取って、指を絡めるとルカは夢中で夕月を揺さぶった。
身も心も溶けてしまいそうな熱の中、混じり合う二人は高みへと昇っていく。
「あっ、...ルカっ...もっ、あ......ぁああっ!」
「くっ......」
恍惚とした表情を見せる夕月に「愛してる」の言葉と共に口づけを送ると、月明かりの下、ふわりと優しい笑みを浮かべて夕月は意識を途切れさせた。
end.
2009.7.26@なんていうか...、色々すみません(逃;