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□手
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それは、ある日の帰り道でのこと。


「あのさ、昶」

「なんだよ」



「手、つないでもいい?」


突然、賢吾がそんなことを言い出した。


「…………は?」

「や、だから、手。つないでもいいかなーって」


思わず聞き返した昶に、賢吾は先ほどと同じ問いを繰り返す。


「…………」

「…………」


しばらくの沈黙。そして、


「……昶?何で赤くなってるの?」

「へっ!?あ、いや…」


一瞬、賢吾と手をつないで帰る自分の姿を想像してしまった。

……ものすごく恥ずかしい光景が見えた。

つか、なんでそういうことを平気な顔で実行しようとするんだこいつは……。


「……男二人がそんなことしてたら気色悪いだろ」


なんとか平静を装って、もっともらしいことを言ってみる。

が。それはまったくの無意味だった。


「そんなことねーって!オレと昶の仲じゃん!」


……なんか腹立つ。殴ろう。

そんな理不尽なことを考え、昶は早速右手で拳をつくった。

しかしその時、賢吾が微かに声色を変えた。


「それにさ、」


にこっ、と笑って、
賢吾は言った。





「オレ、昶のこと大好きだから。……もっと近くにいるって感じたいじゃん?」





不意打ちだった。

今の一瞬の一言で、顔が燃えそうなくらい熱くなった。多分耳まで真っ赤になってると思う。


「あき「っ、うるせぇ黙れ!!」」


それを見られるのがどうしようもなく恥ずかしくて。
昶は慌てて顔を背けた。


「…………」

「…………」

「……ゅう…で……」

「え?」


言った言葉は、小さすぎて賢吾の耳には届かなかったらしい。聞き返されて、それで、

昶の中の何かが音をたててきれた。


「っ、あそこの電柱までだからな!ほらとっとと行くぞ!」

「え、ぅわっ!」


賢吾の手を無理矢理つかんで、昶はいつもの五倍の速さで歩きだした。

こんな速さでは、もうあと50メートルほどの距離しかない向こうの電柱まで、すぐに着いてしまうだろう。

それでも、賢吾は本当に嬉しそうに笑った。


「えへへ、昶、ありがと」
「うるさい。お前あとで殴るから」

「えぇ!?」


照れ隠しにそう言ってはみたものの。
手を離したあとも、その温かさと頬の赤みはなかなか消えなかった。


end...
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