SS 1

□今はまだ…
1ページ/13ページ

長く続いた戦いに終止符を打ち、ついに祖国へと凱旋した夕刻。


エフラムは玉座の前でエイリークに告げた。


「すまんエイリーク、俺はグラドへ行かねばならない。」


「では私もお供いたします。」


間髪入れずにそう言う妹。


それが予想通りだったので、兄は苦笑いをうかべる。


「いや、お前はルネスに残るんだ。」


一瞬にしてエイリークの表情が曇った。
それも予想通りで、笑いそうになるのを堪えながらエフラムは続ける。


自分が不在の間ルネスをエイリークに頼みたいのだと。

そこまで話すと納得したようで、彼女に笑顔がもどった。


「わかりました。兄上の代わりに、私がルネスを守ります。」


ですが、と今度は泣きそうな顔になった。

「今日今すぐなんて無茶はおやめ下さい。出発は、どうか明日に。」



―その顔には昔から弱いんだよ…―

図星を突かれた上、わざとなのか天然なのか。
涙をいっぱいにした瞳を前に、エフラムはそのお願いを聞き入れるしかなかった…。


―全く、あれは反則だぞエイリーク…―

そう思いながら玉座に音を立てて座る。


「ゼト。」


そばで控えていたゼトはエフラムの前に進み出た。


「はい。」


「明日出発の準備、任せていいか。」


「はい。お任せください。」

そう言った後一礼してきびすを返し、玉座の間を後にしたゼトの後ろ姿を見ながら、ぼんやりと考えていた。


―…エイリークを連れて行かない理由はあれだけじゃない。

あんなのは建て前で…俺は…
これ以上自分を抑える自信がないからだ。


もう、妹としてなんて、見ることができない…。―
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ