SS 1
□今はまだ…
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長く続いた戦いに終止符を打ち、ついに祖国へと凱旋した夕刻。
エフラムは玉座の前でエイリークに告げた。
「すまんエイリーク、俺はグラドへ行かねばならない。」
「では私もお供いたします。」
間髪入れずにそう言う妹。
それが予想通りだったので、兄は苦笑いをうかべる。
「いや、お前はルネスに残るんだ。」
一瞬にしてエイリークの表情が曇った。
それも予想通りで、笑いそうになるのを堪えながらエフラムは続ける。
自分が不在の間ルネスをエイリークに頼みたいのだと。
そこまで話すと納得したようで、彼女に笑顔がもどった。
「わかりました。兄上の代わりに、私がルネスを守ります。」
ですが、と今度は泣きそうな顔になった。
「今日今すぐなんて無茶はおやめ下さい。出発は、どうか明日に。」
―その顔には昔から弱いんだよ…―
図星を突かれた上、わざとなのか天然なのか。
涙をいっぱいにした瞳を前に、エフラムはそのお願いを聞き入れるしかなかった…。
―全く、あれは反則だぞエイリーク…―
そう思いながら玉座に音を立てて座る。
「ゼト。」
そばで控えていたゼトはエフラムの前に進み出た。
「はい。」
「明日出発の準備、任せていいか。」
「はい。お任せください。」
そう言った後一礼してきびすを返し、玉座の間を後にしたゼトの後ろ姿を見ながら、ぼんやりと考えていた。
―…エイリークを連れて行かない理由はあれだけじゃない。
あんなのは建て前で…俺は…
これ以上自分を抑える自信がないからだ。
もう、妹としてなんて、見ることができない…。―