仮想19世紀

□おとーさんは夢をみる
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フロワ・ティエドールには4人の弟子がいる。…いや、一人はすでにこの世にはないから正確には3人、と言うべきかもしれないが。

常日頃から、ティエドールは教団にいる間は師弟ではなく家族のように思っている。
そんな彼は長男マリの最近の様子に自然と笑みが深くなる。

(マリも真面目だからねぇ…)

ミランダを姫抱っこして走り去ったマリが森の中で愛の告白をしてから数日が経過していた。
姫抱っこを目撃したり、聞いたりした人々はマリとミランダの二人を心の中で祝福した。
言葉にだして祝福したら、マリはともかくミランダが恥ずかしさのあまり、何をやらかすか分からない。
だから静かに、見守るつもりで祝福をしていた。

談話室で並んで幸せそうに語らっているマリとミランダの様子に目を細めるティ
エドールは、手にしたスケッチブックにさらさらとミランダに似合いそうなウェディングドレスのデザインを描きこんでいた。

(気が早い、と渋い顔をされるかな?でも娘になる人の花嫁姿は早く見たいし、孫の顔もみたいのは親には当たり前だしねぇ…。そうだ、ミランダは身寄りがないらしいから、バージンロードのエスコートも私がしてあげないといけないね)

この世でもっとも美しい【愛】を育む二人の姿にフロワ・ティエドールの妄想は止まらない。

「いいなぁ…幸せそうで…私も彼氏がほしくなっちゃうわ」
ぽつり、とリナリーが言えばアレンも

「僕も。あんな風に付き合えるなら恋愛したいですよ」
過去のクロス・マリアンと愛人たちを思い出して呟く。

「けどさ、なんでマリはミランダに触らないんさ?任務じゃ肩に乗せたりしてん
のに、普段は必要以上に触れてないさ」
ラビだけが違う視点で彼らをみていた。

「君達…私の背中から何故覗いているんだね?」
ティエドールは筆を止めずに背後の少年たちに語りかける。

「すみません、ティエドール元帥。その…元帥の描いてらっしゃるものが気にな
ってしまって…」

談話室でマリとミランダを見かけた3人はこっそり観察しようとして、ティエドール元帥がなにやら熱心に二人を見ながら描いている姿も目撃したので背後から
スケッチブックを覗いていた。

「ふむ、あまり関心できる行動ではないけれど、ちょうどいい。どれがミランダに似合うと思うかね?」
そう言って、何枚にもおよぶウェディングドレスのデザイン画をみせた。

「うわぁ…どれも凄く綺麗…」
やはり女の子、リナリーが真っ先に瞳をキラキラと輝かせて見入っている。

「ちょっと気が早いんじゃ…」

「うちのマーくんは浮気なんかしないし、お付き合いを始めたならそこまで視野に入れてるから大丈夫。ただ真面目だからねぇ…タイミングもあるけどいつになるか」
ため息をついて、困ったね、と言うティエドールの願望、というか妄想、というか予言を黙って聞いていたアレンとラビをよそに、リナリーは一枚のデザインを指差した。

「ティエドール元帥、私、ミランダにはこれがぴったりだと思うんですけど」

「どれどれ?うん。これはね、私も気に入っているんだよ」

にこにこと話す彼らの会話を盗み聞きしていたマリは内心、苦笑していた。

「ミランダ、外野がちょっと気になるから、どこか別の場所にいこうか?」
すっ、と差し出された手にミランダは自身の手を重ね、はにかんだ。

「マリさん、あの…わわわわたし…その…すご、く、幸せ、です」

俯くミランダの小さな囁きにマリは、それはそれは幸せそうな笑みを浮かべて
「私もだよ」と答えた。
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