仮想19世紀

□「ただいま」のあとは
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「マリとミランダって…すごく、爽やかよね」

リナリーから唐突にそんな話を振られてミランダは目をパチクリとさせてしまった。

「?リナリーちゃん、どうしたの、急に」

意味がわからなくてミランダは首を傾げた。

「なんでもないの。変なこと言ってごめん。あ…ほら、マリがきたわよ?」

リナリーの指差す方をみれば確かにマリが歩いてくる。

(よかった…怪我はしてないみたい…)

任務にでて怪我をした、という情報はなかったけれど、やはり姿を見るまでは安心できない。

「おかえりなさい、マリさん」

心配していた分、とびきりの笑顔で出迎える。
たとえマリがその笑顔を見ることができなかったとしても、怪我をして帰ってきたとしても、必ず、ミランダは笑顔で出迎えるようにしていた。

「ただいま、ミランダ。」

二人、肩を並べて仲睦まじく歩く姿は爽やかすぎるほど爽やかで、リナリーは偶然、見てしまった甘い雰囲気に包まれた二人とは結びつかせることが難しかった。

(二人きりのときと他人がいるときで分けているんだろうけど…なんか落差が凄すぎるのよね)


任務から戻ったマリは報告を済ませた足で着替えもせずにミランダの元へと向かった。
帰ったら、1番最初に会いたい女性。

まずは、ただいまの挨拶をして、それから着替えるために二人で自室へといく。
着替えの間、ミランダは部屋の外で待ち、着替え終わったらあとは自由時間。
互いの自室で語り合うこともあれば、談話室や食堂で語るときもある。
過ごしやすい今の季節は中庭で語り合うことが多い。この日も疲れた体ではあったが、自室ではなく中庭で過ごすことにした。

「マリさん、部屋で休まなくて本当にいいんですか?」

ときおり噛み殺すような欠伸をするマリの傍らで、いまにも部屋に戻りそうなミランダに少しだけ情けない声で

「…ミランダと話していたいんだ」
と甘えてみせる。

そんな風に言われて断れるミランダではない。
頬を赤らめ、素直に中庭の定位置となりつつある片隅へと歩いた。

「…あの、マリさん?お願いがあるんですけど…」

ぽかぽかとした陽射しの中に座ったミランダがもじもじしながらマリの袖を引く。

「お願い?」

「あの…です、ね…そのぅ…ひ、ひざ枕…を、し…ま、せん、か…?」

恥ずかしさに段々と声が細くなっていくミランダが、そっとマリの袖を引いて、傾いできた体を支えるようにしながら寝かせる。

「そのぅ…マリさん疲れてる…から…いつも私がマリさんに寄り掛かってばかりだし…」

ミランダの脚の上に頭を乗せられたマリは、初めてのひざ枕に落ち着かないでいた。

「ミランダ?その、少しだけ動いてもいいだろうか?もう少し、寝転びやすい格好になりたいんだが…」

「ご、ごめんなさいっ!私ったら気付かなくて…」

慌てるミランダの脚の上でゴソゴソと体の向きを変え、真上を向く。
色や形はわからずとも、日の光を感じて眩しそうな顔をしたら、柔らかくて少し冷たいミランダの手が瞼を覆ってくれた。

「このまま休んでいいんですよ?」

優しい、慈しみのある声がマリの耳に心地良く留まる。

その言葉に甘えるように瞼に置かれた柔らかな手に、己の手を重ねたマリはそのまま、うとうととし始めた。

聞こえ始めた寝息にミランダはより微笑みを深くして幸せそうにマリを見つめ続けた。

「ゆっくり、休んでくださいね…マリさん…」
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