男女
□だきしめてもいいですか?
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ペンを走らせ、辞書をめくる。
忙しげにレポートを書く弥子を見つめていると、ふと目が合った。
「何?」
「何がだ?」
「ずっと見てるでしょ?」
見ていない。と否定もできず、弥子の頬をぎゅっと抓る。
「煩いぞ蛆虫」
「痛くないよ、ネウロ」
「ほお、痛くして欲しいのか、このドMが」
肌触りが良い。
白い肌は滑らかだ。
一拍置いて、弥子が呟く。
「ネウロ」
「何だ」
自分の手のひらに、弥子の手が重なる。
「 」
唇の形が四回変わる。
そして、にこりと甘く微笑む。
その手のひらを引いて小さな身体を抱き締める。
それだけのことが、何故だかできなかった。
『だきしめても いいですか』
そんな無粋な質問をぶつけなければ
了承の上だと安心しなければ
嫌われないのだと確信しなければ
抱き締めることすら叶わないほどに、このちっぽけな少女が愛おしかった。
FIN