弐
□第四十四節
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「一度江戸へ行かないか」
「江戸へ、ですか?」
斗南へと発つ日取りが決まった頃、斎藤さんがそう提案をした。
急な事に首を傾げる私に斎藤さんは少し眉間に皺を寄せる。
「やはり一度きちんと瑠依の実家に挨拶をするべきだろう」
「別に構いません。それに私の今をどう話せばいいか分かりませんし」
「それはそうだが…しかしきちんと義理は通さねばなるまい」
「もう何年も帰らないどころか文も出さない娘など、今更挨拶もないと思いますよ」
「そうはいかない」
きっぱりと斎藤さんは言い放つ。
礼節を重んじる方だからやはり気になるらしい。
しかし私としては今更どんな顔をして実家に行けというのかと思ってしまう。
「挨拶だけですぐ終わらせるのなら…江戸の実家へ参ります」
「少しゆっくりしたりはいいのか?」
「挨拶だけです」
さすがに譲れないので言い切ると斎藤さんは苦笑を浮かべながら頷いてくれた。
こうして江戸行きを決めた私達は、二日後の朝会津を発った。