ノベル

□*闇
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「ノルディスー!」
 満面の笑みを浮かべて、彼女が力いっぱい駆けてくる。
 あれから僕はエリーととても仲良くなった。
 一緒に材料採取をしたり、工房を営んでいる彼女の手伝いをしたり。
 このアカデミーの中で、彼女の明るさと優しさは僕の救いになっていた。
 そして僕も、少し無茶で危なっかしい彼女を全力で守ってあげたいと思った。

 思って、いた。
 けれど―――。

「やあ、エリー。帰ってきたのかい?」
 採取を終え、部屋に戻ろうとしていた僕は、元気いっぱいに駆けてくる彼女にそう言った。
「うん。ついさっきね」
 キラキラと輝く瞳でにっこりと笑うエリー。彼女はザールブルグから遙か西に位置する港町カスターニェに行ってきた帰りなのだ。
「見てよ、ノルディス」

彼女は持っていた布袋を大切そうに開ける。
 中には青紫色をした植物の実が3つだけ入っていた。
「エ、エリー。これって、まさか」
 『四大元素の精霊』という書物に載っていたのを見たことがある。
「うん。絶滅寸前の実だよ。ミケネー島で見つけたの」
「すごいや。僕も実際に見るのは初めてだよ」
「でしょー?絶対にノルディスに見せようと思って」
 ふふっと嬉しそうに笑い、続けて腰のバックから「千年亀のタマゴ」や「ドナーンの舌」等を次々と取り出す。
 僕は、喜々として採取の冒険譚を語る彼女に笑顔を向けながら、複雑な気持ちでいた。
「ノルディスも一緒に来ればよかったのに」
「うん…そうだね。今度また行くときは誘ってよ」
 彼女の言葉にやんわりと返事をする。
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