隠れ家

□nero angelo
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山崎は顔色の悪い土方に目をやってから、ハイと返事をした。先刻より幾分小さな声だった。

「逆探がどうしても出来ない上に、侵入を諦める気配もありません。既に第七層まで突破されています」
「早いな」

やはり短く、土方は応えた。
歩く間にいつもの定位置に辿り着いている。右隣に座ってキーボードを緩慢に叩いていた、安堵した大半には含まれない数少ない少年がバイザーを上げて土方を見ると、あからさまに嫌そうに顔をしかめた。感情を隠すこともしない。

「何でィ、山崎、この人引っ張り出したのかィ。俺一人でも十分だって言ってんだろが」
「てめェに任せたらまたハードごとここら一体クラッシュすんだろうが。てめェのお陰でウチは予算ギリギリ赤貧なんだ。大人しくサポートにつけ」

へいへい、と沖田は肩をすくめたがむくれた様子はなかった。先日の侵入者を撃退した際、不必要なまでに派手に立ち回った沖田が回線に多大な負担を掛けたうえ、無関係な部署のハードまで破壊して回復不能にしたことで近藤が上に呼び出されたことが多少は応えているらしい。
眼前のモニターの中では、いくつものトラップとループを突破する電賊が一本の光の矢として顕され、ネットの海を駈けていた。それが侵入しようとするタマネギのような層構造の最下層には、本物のタマネギとは異なった小さな芯がある。そこに辿り着かれればゲームオーバーだ。
分かりやすいルール。
小さな、それでいて重要な芯の中には更にゲートがあり、そこから侵入されてしまえば、外側の回線を遮断するしかこちらには対処できなくなる。小さな芯の中までアクセス権は土方たちには認められていない。
十五枚の層のうちの既に八枚までもが突き破られていた。土方が到着する二分の間に事態は更に深刻になったようである。
ここを破られれば、自分たちの存在自体に影響が出るだろう。番犬の用を成さない犬に価値はないのだ。99回成功しても、たった一回失敗すれば敗北だ。

「潜るぞ」

恭しく山崎の手に捧げ持たれたバイクのヘルメットのような装置を目深にかぶり、土方は固い手椅子の背もたれに体重を預ける。


カチリ、と忌々しい音がした。
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