隠れ家

□馨
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土方と名乗った、あの化生のように美しい男のおかげだ。

恨むことより前を見るようにはまだ出来はしないが。高杉はその男にその時一番必要な言葉を貰ったのだ。

死者は生者を縛りはしない。もしも過去に縛られるのだとしたら、それは――――己が己を、縛っているに過ぎないのだろう。



「高杉、一寸良いか」

想い出にそっと浸ろうかとしていた夢うつつを、知った声が打ち破ったのはその時だった。
ふうと高杉は閉じかけていた目を開く。短く肯定すると、カラリと控えめな音を立てて開いた襖の向こう。こぼれ入る音は一瞬大きくなった。
それを厭うように男はすばやく襖を閉じて滑り込んでくる。
くたびれた桂の姿に目を細めて、高杉は上半身を起こした。

「よく、生きて還ってきてくれた、高杉…」

どこにも傷も見受けられない高杉の姿に安堵したように桂は厳しい表情をゆるめ、高杉の真正面に腰を下ろした。

「早速だが、今までどこにいたんだ?戦場の様子を見にいったのだが、あれではとても無事に生きて還れるかとは思わなかったのだが…」
「ああ…死にかけた」

鬼兵隊が壊滅した直後に桂はその戦場へと駆けつけたらしい。
既に天人軍は撤退していたとはいえ、大胆なことをしたものだと高杉思った。あの場はさぞかしや酷いことになっていただろうとうっそりと口元をゆがめる高杉に、桂はそっと目を伏せて返事にした。
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