+++インソムニア+++
□蛹
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そろそろ蛹になっただろうか。
ふと思いついて縁側に出てみると、そこに沖田は居なかった。珍しいと思いながら庭に下りて、前に見たあたりを探す。
青虫は直ぐに見つかった。
随分経っていたけれど、それは未だ青虫のままだった。親指程の青虫は、節を引きつらせながらじっとしている。体表がぼこりとおかしな形に歪んでいる―――。
「そいつぁ蛹にはなりませんぜ」
背筋がぞくりとした。
気配を消して直ぐ後ろに立った沖田は硬直した土方の横に能面のような顔で並んだ。
「こんな季節に可笑しいと思ったんでさ。もう直ぐ梅雨が来ようって季節にまだ青虫だ。こいつの仲間はとっくに蝶になって卵産んでおっ死んだってのに」
無表情な目。
能面のような表情。
沖田はじっと青虫を見て、それから強張った土方の顔を見た。
「寄生蜂腹の中に抱えてるんでさ。もう直ぐ羽化するのかねぇ」
土方を見上げて沖田がようやく笑った。唇を引き上げて、にやりと笑う。いつもの自分をからかうときのような笑い方だ。
そうか、というだけなのに声が出ない。
金縛りにあったような土方の肩を女のような手が掴む。沖田の手だと認識する前に、唇が耳の横にあった。
「俺たちに―――似ちゃいませんかぃ」
今度こそ、嘔吐感を伴った眩暈と悪寒。
震えてなるものかと張った意地はどこかに消えた。
目の前が真っ青になる。無表情に見上げてくる沖田の目の中を一瞬ちらと過ぎっていった青白い炎に、網膜が焼かれるような気がする―――それは、どういう意味なのだ。