+++インソムニア+++

□ありったけの
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「土方さんが俺より先におっ死んだら、こうしてありったけの花で飾ってやりまさぁ」
「……そーかい、じゃあ長生きするしかねぇなぁ」
「そうですぜ。こんなでっかい隈なんか作ってないで、とりあえず生きといて下せぇよ」

驚くほど丁寧に触れてくる手がくすぐったい。ふわりと瞼を落すとどこからか浅い香りが漂ってきた。
こんな花の造花の需要があるはずもないから、きっとどこからか摘んできたのだろう。
だから作り物でない匂いがする。

「知ってますかィ、書類ばっかりやってる土方さんなんて能面みたいで、俺はどうも好きじゃないんでさァ」
「……元々好きでもないだろ」
「いつも仏頂面なのに、いよいよ顔がつるんとなるんでさァ。気持ち悪くっていけねェや」
「無視かよ」
「ぎゃあぎゃあ怒鳴って顔真っ赤にしてるほうが好きなんですよ。近藤さんだって山崎だってきっとそうですぜ」

何で近藤さんの名前が出るんだ。そう思ったけれど、もう頭が上手く働かなかった。唇を動かすのさえ億劫だ。

堕ちていく。
堕ちていく。

「これ以上強くなってもらっちゃ困りやす」

副長の座に手が届かない。大仰な大義名分。そうだと知っている。ただ総悟は俺をからかいたいだけなんだ。
近藤さんの役に立つのが嬉しいとは思う。
けれどわざわざナンバー・ツーの座が欲しいとか、そういう物欲はないはずだ。
近藤さんが育て方を間違っていたなら別だけれど、近藤さんが育てて物欲まみれの人間が出来るはずがない。
黒くは育ったが。
でなければ、疲労困憊している人間の頭に曼珠沙華やら百合やら椿やらを振りまくはずが無い。牡丹もありやすぜ。ああ、そうかい。

「それに俺を育てたのは土方さんでしょう。困りやすぜ、勝手に責任転嫁されちゃあ」
「……育ててねぇよ」
「育てただろが、自分好みの美少年に」
「……少年って年だったか」
「美少年ですぜ」
「………」
「さ、思う存分生きてくだせぇよ」

髪を梳いていた手が離れたと思ったら丁寧に口づけられる。こいつにまで気を使われるとは、どれたけ酷い顔をしていたのだろう。そう思うと少しおかしかった。





「あ、笑った」


遠ざかる意識。その向こう側でやたら嬉しそうな声が聞こえた。
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