+++アンニュイ+++
□夜叉と死神
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いつからそんなことになったのだったか。
目元に滴る橙がかった赤は途絶えない。
銀時の見事な銀髪を染め上げて次々に銀糸を伝って落ちてくるのだ。ぬぐってもぬぐってもきりがない。
いい加減に鬱陶しくなってしまってぬぐうのを止めた手も、べったりと生温いもので濡れていた。地面についたもう片方なんて次第に大きくなっていく池に浸されてしまっている。
この体中、赤く染められていない部分など無いのではないかと疑うほどだった。
死神の声が聞こえる。
自分は次第に狂っていこうとしているのだろうか。
「畜生」
殺せ、とそう最初は必死に自分で念じていたはずだったのだ。
でなければ長時間、あんな生臭い場所で戦っている事はできなかった。それなのにすっかりと血の匂いに慣れた今では男のものとも女のものともつかない声が頭蓋の中、割れそうなまで反射する。
狂ってきているのだ。
長期にわたる戦争は、残っている人間の精神まで蝕んでいく。
明日は死ぬかもしれないという恐怖がちらちらと頭の中で蠢くのだ。
無理もない。不安を打ち消すように戦う銀時の姿は軍神ともいえるもので、けれどそうしてさえその不安から逃れられるものではなかった。
開き直ったように振舞っていても、次第にそこここが綻んでいくのを止められるわけではない。