+++アンニュイ+++
□夜叉と死神
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今日も後半、意識がほとんど無かった。
引き上げる途中、ふと意識を取り戻したのだ。
隣にいつも背中を合わせるようにして戦っている桂が居たから、どうやら自分は今日も桂を殺さずに済んだらしい。
そう安堵したこと自体にも自己嫌悪を重ねながら、その桂に聞いた今日の自分は、どこもおかしいところは無かったという。途中軽口まで叩いて天人を斬り捨てていたらしい。
銀時は何も覚えていなかった。
疲れていたでは片付けられず、どうしようもなくなって、敵の小隊とかちあったのをいいことに殿を勤めるという名目で一人にしてもらった。
このまま桂たちと居て、そのうち可笑しなことを言い出すのではないかと思ったら怖くなった。
本能だけで切り刻むだなんて、まさしく夜叉の所業ではないか。
自分は日々正常から遠ざかり、狂気へと近付いている。
手を引かれるまま知らぬ間に、踏み入れてはならぬ地平へと行こうとしている。
既に肩の辺りまで赤いものがひたひたと押し寄せ、全身の微細な毛穴から侵入しては生身の細胞を浸していくのではないか。
そう思うとたまらなくなった。
たった今殺した天人の体からじわりじわりと流れ出した液体が座り込んでしまった銀時の着物にしみこみ始めて、想像した光景を映し出そうとしている。
そうだというのに背筋を這い上がってくるのが悪寒だとか恐怖だけではなくて、僅かだけれど安堵だとか得心に似たものまで混じっていたものだから。
未だ正気にしがみついている頭がつきりと痛んだ。
「……畜生」
呟いた声は、酷く弱弱しいように思えた。
……もう、何も考えたくない。