+++アンニュイ 弐+++
□かわいいひと。
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「…た、かすぎ…」
「まだ夜だぜ」
「ん…さむい……」
しれっと嘘をつく高杉である。
外では雀がちゅんちゅん鳴いているが、半分以上眠っている土方には聞こえてこない。
もう一度小さくくしゃみをするものだから、少し乱れた夜着を正してやって、ずり下りかけた上掛けを肩までかけてやると、ん、ともう一度呟いて甘えるように擦り寄ってくる。
まだ明け方は寒い季節だ。
抱き込んでやったら分けも分からずふわふわ笑うものだから、早起きは三文の得だとしみじみ思う高杉だ。
普段滅多に少なくとも起きているときでは土方から接触してくるということは少ない。
この前ひと悶着あってからは、それはそれで良い方向に片付いたものの、それからどこなく土方がよそよそしいものだから高杉はそれが不満で仕方がない。
冷たいというよりは、どうしていいか分からないというような顔でどぎまぎしていたり、ふとした接触で赤くなったりするから、多分巷で言う思春期に似たようなものがようやく来たのだろう。二十代後半で思春期なんて気味が悪いが、土方の生い立ちを全部とはいわないが知っている四人にとってはなんだかほほえましいような、くすぐったいような、妙に親のような気分になっている。
が、閨に持ち込むことに関しては今までと別に変わったところはないので、矢張りこの男の精神回路はどこかおかしいし、幼いのかも知れなかった。
いくつもの必要だった段階を一跨ぎにして大人になってしまったという歪みが、そういう部分に現れているのかもしれなかった。
が、実際問題として高杉が重要視しているのはぐんと減ってしまった接触である。
さりげなく腰を抱いたり指遊びのように指を絡ませたりすると、ちょっと俯いてそれからじたじたと逃げようとする。びく、と肩を揺らしたりする。
そういうときの土方は耳まで赤くなっていたり、困ったような、どうしたらいいのか分からないという泣きそうな顔をしてりと可愛いことこの上ないが、だが泣かせたいわけでも苛めたいわけでも高杉はないのだ。
加虐心はあるが、かといってそれを高杉が満足するまで満たしてしまったら、他の男たちに逃げられてしまうかもしれない。
桂なんて初心もいいところで、触れるのもどぎまぎ同士なのだから十分に可能性がある。坂本なんて居るだけで土方は何故だか安心してしまうらしいから役得もいいところだ。かといって同様に微妙に避けられている同士の銀時と愚痴大会をできるような性質ではない。
もどかしくて仕方がないのだ。