+++アンニュイ 弐+++
□蝶と、蜘蛛(第二部)
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ぱちりと目蓋は緩慢に硝子玉の睛を覆い、その表面を潤し往復した。
近藤は硬直したままそれを呆然と見つめている。
音もなく上半身が布団の上に起き上がる。細い体は酷く傷つけられているというのに少しも揺らめくことも無く、至極なめらかにその動作をこなした。
硝子玉の美しい睛は近藤を捕らえてまた、ぱちりと瞬く。
そうして次の瞬間、花がほころぶように彼は微笑んでみせたのだ。
「近藤さん」
掠れた声が確かめるように自分の名を呼んだ。
金縛りが解けていくような気がして、近藤は強張っていた肩をやっと下ろすことが出来た。
トシ、と応えるように呼ぼうとした瞬間、ことん、と土方は首をかしげてふわふわと笑い続けながら囁いたのだ。
「俺、死んだんだな」
何の疑問すら孕まない声音にまた全ての筋肉が硬直するのを近藤はこちらもまた停止した頭で認識した。
歩み寄ろうとした足を止めた近藤を気にすることも無く、土方はまた子供のようにあどけなく笑って続ける。
「駄目だろう、アンタは上にいかねぇと。俺はさんざやったから地獄でも仕方ねェけど、アンタは浄土じゃねぇといけねェよ。それともわざわざ俺の顔見に来て…」
「トシっ」
ようようのことで近藤は土方の声をさえぎった。手足はみっともなくがたがたと震えている。頭の奥がつんとしびれるように凍えて、痛い。
涙が出そうになる。
土方の首が、いよいよ深く角度を変えた。