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□鬼の嫁入り
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夢を見ているのだ。
はじめから、そう分かっていた。
分かっていながら、その夢は、高杉の胸に小骨のように突き刺さって、一向に抜け落ちようとはしなかった。


感覚が妙に鈍っていて、自分の体が自分のものでないような感覚は、死ぬときと似ているのだろうか。ああ、夢を見ているのだ、と分かるのは、ぼんやりとした頭がまだ辛うじて動いているからだ。視界もきくし、どこもやられてはいない。だがあまりに普段から、己は死に近いものだから、時々自分が本当はどこにあるのか分からなくなりそうになる。
夢を見ているのだ――――。
そう分かるのは、自分の周りを囲む人間が、今はもういないものばかりだから、だったのかもしれない。
何故か自分は紋付袴をかっちりと着こんで、上座に座っていた。五つ紋の正絹羽二重なぞ、ここのところとんとご無沙汰だ。大抵着流しで済ませてしまうし、高杉には誰もそんな格好を要求なぞしない。
何故か自分たちを上座に置いて、両脇にはずらりと知った顔が、同じようにかっちりと羽織袴姿で並んでいる。戦場で出会って戦場で死んで、戦装束以外を見たことも無いような男までが、この時ばかりはしっかりと正装をして、目を細めるようにして己を見ていた。
何より、松陽がいる。高杉の傍ら、父母よりもなお近くに座るその男もまた、紋付袴の堅苦しい格好である。桂もいる。銀時も、村塾で学びもう今はこの世のどこにもいないものたちもまた、一同に会して大人しく座り、高杉と彼女を見上げては穏やかに微笑している。
彼女――――そう、もう一人が、高杉のすぐ傍らにいるのであった。
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