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□定春三号。
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日差しのまぶしい日だった。

気温が高く、比例して湿気も高い。この国特有の気候だ。その中でもきっちりと隊服を着込んでいる土方の体感気温は温度計の示すそれよりももっと高い。きっとベストの下ではシャツがぺたりと肌に張り付いて、肩甲骨が浮き出ているのだろう。

そうげんなりするような想像をして少しだけ現実から目を逸らそうとしたけれど忘れきれるものではなかった。暑気に押されてかやや青ざめた唇は火の付いていない煙草を咥えたまま終始真一文字に引き結ばれている。スカーフをむしりとられた首に取り付けられた皮につけられた鎖が存在を誇示するようにちゃらりと小さな音を立てて揺れた。

+++定春三号。+++

土方はこめかみをひきつらせて首元から伸びる鎖を掴んでいる手を睨みつけた。

幼子のようなまだ甘さの残る手のひらは逃がさないというようにがっちりと鎖の端を掴み、手の持ち主である桃色の髪をした少女は嬉しそうに鼻歌なぞ歌っている。一般人なら一発で気絶するような凶悪な視線もこの少女には通用しない。酢昆布をしゃぶりながら上機嫌に曲のサビを繰り返している。

沖田と戦ってケロリとしているくらいだから、土方の視線なぞどうというものでもないのだろう。胆力だけは無駄にあるのだ。

「何ネ、その目は。言いたいことでもあるカ?」
大有りだコラ。そういうだけの気力も無いのはいつ首をもがれるか分からない少女の豪腕を知っているからだ。それか、散歩と称して連れまわされた距離のせいかもしれない。

ほぼ三キロ、一般に首輪と称される革製器具を付けられ少女に引きずりまわされる―――倒錯した趣味持ちのように道行く人間に白眼視された土方は体力・精神力ともに赤く点滅している。残り僅か、もうゲージは視認できない。誰か回復呪文を唱えてくれないだろうか。

しかも勤務中だったものだから格好が天下の真選組である。もうこれからしばらく見回りなぞ出られやしない。倒錯した趣味ついでにコスプレだと認識されていればいいが、如何せん自分の人相は目立ちすぎているので。

溜息をつき首を振った途端にじゃらりと物騒な音。ますます頭痛がひどくなった。何の遊びだコラ!このチャイナ娘め!!
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