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□定春三号。
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「何のつもりだコラァアア!!!」

ぽろりと思わず煙草を取り落とした土方は、認識した瞬間首まで憤怒で赤くなった。

よいしょ、と太い鎖の端を確認するように握っている神楽に声の限り叫ぶが、

「定春が帰ってくるまで代わりをするヨロシ。役立たずには似合いアル…そこのヒョロイの、定春三号を返してほしければ死ぬ気で定春を探してくるネ」

「誰が定春三号だァ!斬るぞこのチャイナ娘ェエエ!!!」

事態を飲み込んだ土方が怒鳴っても矢張り神楽に堪える風は無い。突然の事態に未だ硬直している山崎は、続いた神楽の言葉に顔色を一気に青から赤に変えた。

「今日中につれてこなかったらお前らの副長は一生私のペットネ。可愛がってやるから覚悟するヨロシ」

「ぺ……ペット……ッ」

温度変化が分かるような顔色の変化であった。

「赤面してる場合かこのヤロォオ!今何想像しやがったッ!!」

「わ…分かりました!不肖・山崎退、今すぐ屯所に戻って応援を要請します!!」

「いやだからなんで赤面…ッ………頼むから総悟だけには言うなよ山崎ィ!!」

土方の叫びも聞かず最敬礼して踵を返した山崎は、タッタカター、と軽快な足音を響かせ宣言どおり屯所の方向に消える…何故か少し前かがみであった。

畜生山崎め今月の給料五十パーセントカットしてやるミントンのラケットへし折ってやる。ぐつぐつ煮立って今にも煮崩れを起こしそうな脳内でそれと同時に願ったのは、沖田がどうかこの事態を聞きつけませんように、だった。毎日サディスティックの王子様の犠牲をこうむっている身としては、これ以上のネタは提供したくなかったのである。

……祈ったってどうせ届かないだろうけど!!


「どうして首輪なんかされなきゃならねぇんだ……」

「しないとお前逃げるアル」

「だったらさっきの白いのにつけりゃいいだろ!」

「付けようとしたら定春逃げ出したネ」

巨大犬にあつらえたものだからだろう。

息が出来なくなるような勢いでぎゅうぎゅうと締められた革ベルトはかなりの長さがベロリと余って、忌々しそうに隊服の前にぶらさがるそれを土方は睨む。

この格好で一刻ほどものんびりとした散歩をさせられている。最初のころは怒鳴り散らしていたが、周囲の視線と神楽が鎖を引っ張るのとで体力も精神力もまもなく底をついた。今はただ、仲間がさっさとあの巨大生物を捕獲してくれることを祈るだけだ。…死人が何人かでるかもしれないが。

くるくると傘を回して神楽が言う。

「定春、まだ子供ネ。遊びたい盛りアル。けど銀ちゃんが危ないから鎖付けろって言ったヨ。そしたら定春、銀ちゃんに噛み付いて玄関突き破って大脱走」

「…危ないなんてもんじゃねぇだろ。で、銀髪は生きてんのかよ」

「銀ちゃんそれくらいで死ぬようなヤワじゃないアル。血はいっぱい出たけど」

確かにゴキブリ並みにしつこくて丈夫そうである。
すばやさも常人のはるか上であるが、さすがに噛み付かれて無傷ではいられなかったようだ。追突された拍子にどこかにひっかけた手の甲が赤くなっているのに今更気づいて眉根を寄せる。
今日は厄日だ。
眉端を僅か下げた土方ににこりとして神楽は続ける。

「私も流石に男を飼うのは初めてアル。優しくしてやるから安心するヨロシ」
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